沖縄の魂に触れた気がした
無知を省みることなく、自分の意見を主張するのは危険。
何かについて意見を述べようとするのなら、その出来事について理解が足りているかを検証するのは大切だと思う。
ボクにそのことを強く意識させた小説を読んだ。あまりに衝撃的すぎて、読了後はしばらく言葉を失ったほど。
『宝島』真藤順丈 著という小説。第160回直木賞と第9回山田風太郎賞を同時受賞した作品。となれば読まないわけにはいかない。しかし、これほどこの小説のパワーに圧倒されるとは想像もしなかった。
単行本で540ページある大長編で、かつ沖縄が舞台なので慣れない言葉が飛び交う。だから読了するのに5日もかかってしまった。だけど読まないほうが、もっと後悔することになっただろう。
これは1952年から1972年までの沖縄を描いた物語。つまり終戦後、アメリカに属した沖縄が本土復帰するまでの出来事が描かれている。もちろんそこに存在するのはアメリカ軍の基地であり、兵士たち。
いきなり『戦果アギヤー』という言葉が登場する。年端もいかない少年たちが米軍基地に忍び込み物資を盗み出す。そして生きることのままならない人たちに、その物資を配ってまわる。そんな義賊のような連中のことを『戦果アギヤー』と呼んだ。
この物語の主人公はその『戦果アギヤー」たち。沖縄の決戦で親を亡くしたオンちゃん、グスク、レイ、ヤマコの4人の20年がこの物語を構成している。
オンちゃんは沖縄における伝説的な『戦果アギヤー』だった。リーダーとして仲間から尊敬されているだけでなく、沖縄の人たちにも命の恩人として慕われている。盗まれた物資を提供してもらうことで、一家心中することなく生きていけたから。
ところが嘉手納基地を襲ったとき、予想外の出来事が起きる。ここからミステリーの様相が強くなる。オンちゃんが行方不明になってしまう。どうやらアメリカにとって知られてはいけないものを盗んでしまった。そのことで姿を隠さざるをえなくなった。
残されたグスクはオンちゃんの親友。レイはオンちゃんの実の弟、そしてヤマコはオンちゃんの恋人だった。行方不明になったオンちゃんを3人は必死になって探す。やがて時代は変わり、それぞれの運命も大きく変化していく。
グスクは琉球警察の警察官。レイは沖縄のヤクザ。そしてヤマコ教師をしながら沖縄本土復帰の活動家となっていく。3人は別の道を進みながらも、オンちゃんの行方を追っていくという物語。
まだ新しい作品なので、ネタバレはここまで。ただ想像できると思うけれど、米軍兵士による強姦や殺人、飛行機の墜落、そしてアメリカ政府による住民の思想弾圧等はテーマとして避けられない。
ボクはこの物語がスタートして10年後に生まれている。そして本土に変換された1972年のときは10歳だった。同年代の子供がこの物語の終盤に鍵を握る人物として登場するけれど、この当時の沖縄のことは、京都で生まれ育ったボクには理解の及ばない世界だった。
この本を読むことで、生まれて初めて沖縄の魂に触れたような気がする。
そしていまでもアメリカ軍基地に対する反対運動が行われていることの、そのほんの一部は理解できたと思っている。知らないことばかりだったので、かなり衝撃的な内容だった。やはり無知というのは怖い。
いまはまだ沖縄の抱える問題についてうまく言語化できない。新しい事実を知ってかなり混乱しているから。ただはっきり言えることはある。物事の片面だけを見てはいけないということ。双方の立場の意見を知ることで、ようやく自分なりの考えを持つことができると思う。
とにかくすごい小説だった。読み始めると、語り手が誰なのか気になるはず。そしてラストになって、読者はこの物語の語り手に遭遇する。その瞬間、読者のそれぞれの心に何かを呼び覚すことになるだろうと思う。
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