愛されたいという魂の叫び
京都アニメーションを放火した犯人が大阪で治療を受けた感想を口にしている。「こんなに優しくされたのは初めて」と。
彼がどんな環境で育ってきたかわからないし、そう感じる背景も不明。だけど想像はできる。誰かに心から優しくされたことがなかったのだろう。そう思うと切ないし、とても悲しくなる。
もちろん命を失った人のことを考えると、彼に同情する余地はない。生い立ちがどうであれ、彼は許されないことをやってしまった。おそらくいまの日本の法律では、自らの命を差し出すしかないだろう。
だとしても、愛されたいという魂の叫び声が聞こえたような気がする。そしてこの映画も同じことを語っていると思う。
『パーフェクト・ワールド』という1993年のアメリカ映画。公開当時に観たけれど、そのときはあまり何も感じなかった。まだ20代だったからだと思う。この映画の語っていることを理解するには、ある程度の人生経験を必要とするのかもしれない。
ケヴィン・コスナー演じるブッチは刑務所を脱走する。そしてある出来事によって、フィリップという少年を人質にして逃亡する。彼の目的は幼いころに生き別れとなった父が絵葉書を送ってくれたアラスカへ行くこと。彼にとって、そこは『パーフェクト・ワールド』のはずだった。
ところがその父親はかなりの悪党。幼いころにブッチに対して暴力をふるっていた。だから彼は、子供に対する暴力に過剰反応をする。それは彼の生い立ちがそうさせるのだろう。逆上すると手をつけられなくなる。
いっぽう人質となったフィリップも父親が失踪していた。父の愛を求めても得られない。そのうえ狂信的な母親に抑圧されていた。やがてフィリップはブッチに対して父のような思いを抱き、ブッチもフィリップに愛を注ぎ始める。
結果としては悲劇に終わる物語だけど、とても切なくて胸が痛い。ブッチもフィリップも、「愛されたい」という魂の叫び声を発し続けていた。だからこそ二人は互いに惹かれあった。
幼い子供がどれだけ大人の愛情を必要としているか、この映画は切実に訴えかけてくる。警察署長を演じたクリント・イーストウッドは、監督してもそのことを伝えたかったんだと思う。愛に見離された人間の悲劇が切々と語られている。
ボクが20代のときにはピンとこなかったけれど、できればその年代の人に観て欲しい映画だと思う。特にこれから子供の親になろうとする人たちに。
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