祖国が分離する悲しみと苦悩
ボクの大好きな伝記映画に『ガンジー』という1982年の作品がある。ガンジーを演じたベン・キングスレーの実質的なデビュー作で、3時間を超える長編なのに数えきれないほど観ている。
ガンジーという偉人の人生で語られているメインテーマはインドの独立。300年にも及ぶイギリス支配からの独立を成し遂げたインドが描かれている。本来なら喜ばしいことなんだけれど、ボクはこの映画を観たときに愕然としてしまった。
それは独立を果たしたのにインドとパキスタンに分離してしまったこと。国家の分離をめぐってヒンドゥー教徒とイスラム教徒のあいだに暴動が発生して、何万人という人が無残に殺されている。このことで苦悩するガンジーの姿が、いまでも心に強く残っている。
そして今日観た映画は、同じ1947年の独立に関してイギリスの総督の視点から見たという作品。
『英国総督 最後の家』(原題:Viceroy’s House)という2017年のイギリス・インドの合作映画。
イギリス最後の総督となったのはルイス・マウントバッテンという人。妻と娘を伴って、インドの独立を支えるために赴任する。その一家の悲しみと苦悩を描いた作品。
そしてこの物語を別の面で支えるもう一組の主人公たちがいる。500人もいる総督邸の使用人として働くジートという男性とアーリアという女性。互いに惹かれあっているけれど問題がある。ジートはヒンドゥー教徒でアーリアはイスラム教徒。
宗教がちがうからといって、この時代のインドではそれほど結婚の障害にはならない。ただし1947年はまずい。独立に伴って二つの宗教が血生臭い争いを続けていたから。これだけでこの二人の悲しい運命が想像できるだろう。
ガンジーは分離に反対。のちにインド最初の首相になったネルーに対して、ガンジーと総督は統一インドとして独立するように説得する。ネルーもその気になるけれど、問題はイスラム教徒を率いるジンナーという指導者。ジンナーはパキスタンという国家を創設するのが悲願。だから絶対にゆずらない。
ちなみに『ガンジー』でも、そしてこの映画でも、実在の登場人物は本人にそっくり。でもどちらかと言えば、この映画のほうが完璧と言っていいほど似ていた。ガンジーなんて本人が蘇ったのかと思ったくらい。
この映画の見どころがラスト近くで明らかにされる『商的的な事実』にある。この映画の監督は、それが事実だとして映画に取り入れている。だけどそのことに疑念を持つ人もいるし、パキスタンではこの映画が公開中止になった。
その『衝撃的な事実』とは、1943年にイギリス首相のチャーチルとジンナーとのあいだで、パキスタン建国の密約ができていたというもの。大英博物館でこの文書が見つかって問題視されているそう。
チャーチルとしてはソ連の台頭を恐れていた。だからパキスタンを取り込んでおかないとソ連の共産主義が席巻することになる。それで前もってパキスタンの独立を容認していたというもの。そんなことを知らない総督は、自分がただ利用されていただけだと気づく。このたりの真実は別にして、ドラマとしては最高に面白い。
分離が確定したとき、インド全土でパキスタンは20%、インドは80%と決められた。そこで総督の家にあるすべての財産もその配分で分割される。さらに500人もいる使用人たちも、どちらの国籍となるかの選択を迫られる。このあたりは切なくて、涙なしでは見られない。
自分の国が、そして生まれ育った自分の故郷が二つに分断されてしまう。この悲しみと苦悩は経験した人しかわからないだろう。朝鮮半島の人たちも同じ経験をしている。日本人にはなかなか理解できないことだと思う。
総督一家はインドの独立後もインドに残って、住民たちのために尽くした。本当にすごい人たち。実在の人物だけに心が揺さぶられて涙が止まらなかった。
そしてラストシーンが忘れられない。暴動によって愛するアーリアが死んだと思い込んでいたジート。だけどこの二人に奇跡が起きる。現実的ではない場面かもしれないけれど、このシーンがあることで救われた気分になる。
さらにこの映画を観ようと思う人はエンドロールにも注目。あえて言わないけれど、ボクは号泣してしまった。よくこんな素敵な映画を作ったと思う。心から拍手を送りたい気持ちになった。
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