偏見が差別を生み、嫉妬が暴力と化す
不思議なもので、差別問題に関心を持っていると、まったく意図していないのにそうした映画を引き寄せてしまう。
数学上の発見を扱った物語だと思ったのに、根底にあるのは根深い人種差別だった。
『奇蹟がくれた数式』（原題:The Man Who Knew Infinity）という2016年のイギリス映画。ラマヌジャンというインド人の数学者の人生を描いた、実話の映画化作品。こんな人がいたのに驚きながらも、切なくてたまらない作品だった。
時代は1910年代の初め。ラマヌジャンは数学が好きで、独学でとてつもない数学理論を構築していた。極貧のバラモン階級の生まれなので、数学の仕事をしたいと思っても難しい。でもどうにか見つけた就職先の上司が数学に関心があり、この才能を埋もれさせたらインドの損失だと考える。
そこでインドを植民地化しているイギリスの研究者に、膨大な数式となる彼の研究成果を手紙で送らせる。そのほとんどは無視されたけれど、ケンブリッジ大学のハーディ教授がラマヌジャンの才能に驚愕する。それで彼をケンブリッジ大学に招聘した。
だけどラマヌジャンには結婚したばかりの愛する妻がいる。さらに母親は迷信深く、海を越えることで災いが起きると信じている。どうにか息子がイギリスに行くことを認めたけれど、新妻の同行を妨害する。夫婦で行けば、二度とインドに帰ってこないと考えていたから。
ラマヌジャンはケンブリッジに到着すると、文化のちがいに困惑する。彼はかなり厳しい戒律を課す菜食主義者なので、まず食べるものがない。ポテトでさえラードで調理されていると口にできない。
さらに彼を待ち受けていたのは、インド人に対する差別。この当時のイギリスは、インド人に数学ができるなんて信じられない。そんな偏見が差別を生み、さらにラマヌジャンの実力を知ることで嫉妬に変わる。そして嫉妬は暴力へと姿を変えていく。このあたりは辛いシーンが続く。
ハーディ教授は彼の実力を認めさせるため、構築した数学理論の証明を彼にさせようとする。ラマヌジャンは公式や定理は思いつくけれど、なぜそれが出てくるのかわからない。ハーディがそのことを問い詰めると、女神が公式を伝えてくるとラマヌジャンは答える。本当にそうだったのかもしれない。
だけどハーディ教授の協力によって、ラマヌジャンは自分の理論を証明する。そして最終的にはケンブリッジの教授陣と名を連ねることになる。だけどこれからというとき、１年後にイギリスへ戻ってくると約束したラマヌジャンは、故郷で病気が再発して他界してしまう。
イギリスにいた５年のあいだ、極端な菜食主義によって結核にかかっていた。栄養を取るように言われても、頑なに拒否してきた。結果としてそれで命を縮めてしまうことになった。本当に切ないエンディングだった。
ラマヌジャンが構築した数学理論は、現代ではブラックホールの計算に使用されているとのこと。すごいよね。イギリス人による極端な差別がなければ、そしてもう少しバランスのいい食事をしていたら、もっと素晴らしい業績を残したかもしれない。
この作品でハーディ教授を演じたのは、ジェレミー・アイアンズ。やっぱりイギリスの俳優さんはいい。ボクが彼を初めて知ったのは『ダイハード３』でサイモンという悪役を演じたとき。久しぶりに彼の演技を見て、俳優として惚れ直してしまった。
人類は人種差別によって、数えきれないほど大切なものを失っているだろう。この映画をみて、本気でそう思った。
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