自分らしくある苦悩と勇気
先日、このブログで性同一性障害の高校生についての記事を紹介した。戸籍上は女性なので、中学生のときに女子用の制服を着なければいけなかった。
LGBTという言葉が浸透しつつある現代でさえ、まだ性の多様性に対する理解が進んでいない。ましてや50年前なら……。
女性の同性愛について描かれた映画を観た。映像的に美しい作品だった。でも時代背景を考えると、心の奥に小さなトゲが刺さったままのような切ない痛みを覚える作品だった。
『キャロル』という2015年のアメリカ映画。数えきれないほどの映画賞にノミネートされた話題作で、カンヌ映画祭では主演したルーニー・マーラが女優賞を受賞している。
ルーニー・マーラは、いまボクがもっとも注目している女優さん。初めて観たのは『ドラゴンタトゥーの女』のハリウッド版でリスベットを演じたとき。それ以来いろんな映画で観ているけれど、どの作品でも印象深い演技を見せてくれている。
そして若手の彼女を引っ張っているのがケイト・ブランシェット。この二人の演技を観るだけでも価値のある作品だと思う。二人は同性愛の関係にある設定なんだけれど、ベッドシーンは息を飲むほどの迫力と美しさに満ちていた。
舞台は1950年代のニューヨーク。主人公のテレーズは百貨店の店員。恋人はいたけれど、まだ肉体関係に至っていない。結婚を申し込まれても、色良い返事が出てこない。それは彼女も気づいていないけれど、同性愛者としての自分が存在していたから。
ある日テレーズは、百貨店でキャロルという美しい女性と出会う。4歳の娘のクリスマスプレゼントを探しにきていた。キャロルも親切にしてくれたテレーズに好感をもち、豪華な自宅に招待する。
ところがキャロルは離婚調停中。その理由は、彼女が同性愛者だということが夫にバレたから。この時代に同性愛者はまともな人間として認められていない。キャロルを愛する夫は、嫉妬のあまり娘の養育権をキャロルから奪おうとする。
娘を溺愛しているキャロルは、そのことで苦しむ。テレーズに相談しているうち、二人は互いの気持ちに気づいてしまう。そして夫が単独親権を主張する裁判を起こしたことで、キャロルは絶望する。クリスマスに娘を連れ去った夫は、元の生活に戻らないと娘に会わせないと言い切る。
葛藤するキャロルは、ひとりぼっちのクリスマスに耐えられなくてテレーズと旅に出る。そこで二人は結ばれるけれど、夫は彼女たちに探偵を送り込んでいた。そしてホテルで愛し合う二人の声を盗聴することで、裁判を有利に進めようとした。
テレーズはキャロルを追い込んだことに苦しみ、彼女から離れる。キャロルも娘を愛するあまり、弁護士に依頼して妥協策を探ろうとする。ところが裁判前の話し合い中、テレーズとの証拠を提出されたキャロルは態度を変える。
キャロルはテレーズを心から愛している。そんな自分を偽れないと答える。そして夫の親権は諦めるけれど、娘との面会権だけを保証するように夫へ迫る。自分を偽って普通の母親でいるより、世間から冷たい目を向けられても同性愛者としての自分を生きることに決めた。
キャロルの葛藤と苦悩、そしてそこから一歩踏み出すための勇気ある姿を、ケイト・ブランシェットが見事に演じている。そして一度は別れたテレーズの元へ向かう。そこからラストシーンへとつながる。
キャロルを迎えたテレーズの葛藤も切ない。恋人とは別れたけれど、ニューヨークタイムスのカメラマンとして成功しつつあった。なんとか普通の恋愛をしようとするけれど、キャロル以上に愛する人に出会えない。そして彼女も自分の勇気を奮い立たせる。
二人の女優が体当たり演技で最高のドラマを見せてくれた。本当に素晴らしい作品だった。
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