近い人間の憎しみは強い?
ニュースで過激に報道されるので、テロや通り魔のような無差別殺人の恐怖をボクたちは植え付けられている。話題性も高いので、視聴率も稼げるからだろう。
だけど実際の殺人事件は、圧倒的に身内によるものが多い。殺人事件のほとんどは被害者と加害者に血縁関係があるらしい。
もしかしたら、近い人間のほうが深い愛も生まれるけれど、憎しみも強くなるんだろうか? そんなことを感じている。
その範囲を少し広げると、現在の国際関係で複雑な問題を抱えているのは、より近い民族間が多いように思う。たとえば、日本と韓国、北朝鮮、中国という東アジアの民族。インドとパキスタンなどもそうだよね。
人種の見た目は近いのに、『何か」がちがうことで底が見えないような深い溝ができてしまうことがある。
さらにひどいものがある。それな内戦。日本で直近の内戦といえば戊辰戦争だろう。いや、明治になってからの西南戦争かな?
海外ではソ連と中国、そしてアメリカとの代理戦争とはいえ、ベトナム戦争も悲惨な内戦だった。カンボジアの内戦もおぞましい結果を生んでいる。
そして数えきれないほどの死者を出しているのがアフリカ各地での内戦。ナイジェリアの内戦をテーマにした映画を観て。ボクは完全に言葉を失った。あまりに悲惨すぎる。
『ティアーズ・オブ・ザ・サン』という2003年のアメリカ映画。写真のブルース・ウィルスとモニカ・ベルッチが主演している。実際に起きたナイジェリアの内戦を元にした作品。
ナイジェリアはキリスト教系のイボ族が大統領を置いて支配していた。だけどムスリム系の反政府軍がイボ族の大統領を殺し、ナイジェリア全土を掌握した。そしてキリスト系の民族を皆殺しにしようとしていた。
ブルース・ウィルス演じるウォーターズは、海軍の特殊部隊であるSEALのリーダー。モニカ・ベルッチが演じるアメリカ人医師のリーナを救い出すことを命令された。それで7人の部下を連れてナイジェリアに潜入する。
無事にリーナに接触できたけれど、患者を置いてアメリカへ帰らないと拒絶される。ウォーターズはリーナを騙して彼女だけを連れ出そうとしたが、途中で考えを変える。反乱軍のあまりに非道な行為を見て、子供や老人、そして自力で歩ける怪我人も一緒に助けようとする。
でもどれだけ逃げても反乱軍は追ってくる。やがてリーナが何かを隠していることにウォーターズは気付く。難民に紛れてイボ族の大統領の息子がいた。だから反乱軍は執拗に彼らを追ってきたというわけ。
というような状況で、カメルーンの国境まで脱出する物語。反乱軍を悪者にして、アメリカ寄りのイボ族を正義にしているのは少し気になるところ。まぁ、アメリカの映画だから仕方ない。
少し調べてみたけれど、イボ族もムスリムの部族に対して非道なことをやっていたそう。内戦とはそういうものなんだろう。
ただこの映画はそうした政治的な事実ではなく、内戦がもたらす狂気と悲劇を完璧に描いていることに心が動かされた。逃亡中に一行は、反乱軍に皆殺しにされている途中のイボ族の村に遭遇する。このシーンは壮絶すぎて、子供には見せられない内容だった。
でもこれでも事実のほんの一部なんだと思う。最初に書いたように、近い人間に対する憎しみは人間を悪魔に変えてしまうんだと感じた。これほど躊躇なく内戦のひどさを伝えている映画は少ない。この映画の監督は、よくここまで勇気を出して撮影したと思う。
そしてこの映画のブルース・ウィルスは最高だった。男なのに惚れてしまいそうなくらいカッコいい。そしてモニカ・ベルッチもただ美しいだけでなく、ボロボロになりながら内戦の悲惨さをリアルに伝える演技だった。とても怖いけれど、いい映画だったと思う。
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