時間が紡ぐドラマの数々
昨日のブログでも紹介したように、ボクは時間をテーマにしたドラマに魅了される。人間の喜び、愛、怒り、嫉妬、あるいは後悔というものが、流れゆく時間と密接に関わっているからだろう。
そんな時間をテーマにした小説を集めた短編集がある。直木賞候補になったことがきっかけで読もうと思った作品。どのような小説を書く作家なのかまったく知らなかったけれど、ボクは著者の世界観にハマってしまった。
『嘘と正典』小川哲 著という小説。全部で6つの作品が収録されている。
『魔術師』
『ひとすじの光』
『時の扉』
『ムジカ・ムンダーナ』
『最後の不良』
『嘘と正典』
どの物語にも『時間』が関与してくる。著者は東京大学の博士課程中退という経歴があって、数学者のアラン・チューリングについて研究をされていたそう。そのせいか科学的な記述がリアルで説得力がある。新しいタイプのSF小説としてファンになる人が多いだろう。ボクもそのひとり。
どの作品も良かったけれど、印象に残っているのは『魔術師』と『嘘と正典』の2作。
『魔術師』は父親がマジシャンだった人物が語り手となった物語。父はあるマジックを披露したあと失踪している。それがとてつもないマジックだった。
『タイムマシン』を舞台で実演したもので、現在から過去の自分に会いにいくというマジックを見せた。主人公の姉は父に反発しながらもマジシャンとなっていた。だから父が失踪するきっかけとなった『タイムマシン』のネタを解明しようとした。
姉によると、「あれが本当にマジックなら父は天才か、あるいは本当にタイムマシンを作ったかのどちらかだ」と明言する。そして長い年月をかけて、姉がそのマジックを舞台で披露するという物語。想像を絶するマジックのトリックに圧倒されてしまった。
『嘘と正典』は冷戦時代にモスクワに駐在していたCIA工作員が主人公。情報提供者である科学者と接触した主人公は、その科学者から恐るべき告白をされる。電子加速器を応用することで、過去の時代にメッセージを送る方法を発見したというもの。
もしそれが事実なら、過去の出来事を当事者に伝えることで歴史を変えることができる。そして主人公はソ連という国家を歴史から抹殺する方法を思いつく。
ソ連の革命を精神的に推し進めたのはマルクスとエンゲルス。特にエンゲルスの役割が大きく、彼がいなければソ連という共産国家は出現することがなかった。そこで歴史を調べると、衝撃の事実が明らかになる。
エンゲルスは工場の争議行動において起訴されていた。ほぼ有罪が決まっていて、そのままなら刑務所行きだった。だけどたった一人の人物の証言によって、エンゲルスは無罪判決を受ける。そこで主人公は過去に通信することで、その人物が裁判で証人とならないよう依頼する物語。
この『嘘と正典』は本当にすごい。ボクはぜひともハリウッドで映画化して欲しいと思った。理論的な裏づけもあるので、映画としても大成功すると思う。
とても素晴らしい作家に出会ったので、著者の他の作品も読んでみようと思う。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。