名ばかりの女王の苦しみ
苦しみや辛さというものを測る絶対的な指標なんて存在しない。ボクが苦しいと感じることは、別の人は大したことないと思うかもしれない。その逆もあるだろう。だから悲しみや苦しみというのは主観的なものだと言える。
他人の苦しみに共感しようと思えば、自分の経験に基づく想像力を働かせるしかない。でもそれは経験している範囲に限られるので、あくまでも想像でしかない。ましてや普通の人では想像できない立場の人の苦しみは、同じ立ち位置にいる人でないと想像することさえ難しいかもしれない。
そんな一般人の理解を越える、女王という立場に焦点を当てた映画を観た。そのふたりは互いの立場を理解しているゆえ、その苦しみも悲しみもわかる。唯一の共感者だと言っていい。そのことがわかっているのに、女王であるがゆえに相容れないふたりを描いた作品。
『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(原題:Mary Queen of Scots)という2018年のアメリカ・イギリス合作映画。イギリスの歴史物語が大好物のボクにすればストライクの映画。時代は16世紀の後半で、ちょうど『麒麟がくる!』の時期と同じころの物語。
ふたりの女王とはイギリス女王のエリザベス1世と、スコットランド女王のメアリー・スチュアート。メアリーは子供のころキリスト教の宗教問題でフランスに移住していて、フランス国王の妻となっていた。だけど国王が亡くなったことでスコットランドへ戻った。
スコットランドでは女王として政治に関わっているけれど、メアリーはエリザベス1世とは従姉妹にあたり、イングランドの王位継承権がある。後継者のいないエリザベス1世に対して、メアリーは次の王として自分を指名するように要求する。当然ながらふたりの関係はギクシャクする。
そんなふたりの女王の争いのように見えるけれど、この時代を考えたら想像がつくだろう。実際に国家を牛耳っているのは男たち。だからエリザベス1世は徹底的に結婚を断った。男は結婚すると野心を持つことがわかっていたから。
メアリーは反対に、結婚して世継ぎを産むことに執着した。そして思わくどおりに世継ぎの王子を産む。ところが女王の世界に男を招き入れたことで、メアリーは男たちの野心に巻き込まれてしまう。そして冤罪を受けてスコットランドを追放されてしまう。
そんなメアリーを救ってくれたのはエリザベス1世だった。女王ゆえの苦しみが理解できるからだろう。彼女をイングランドにかくまって、スコットランド政府に手を出さないよう厳命した。だけどそんなエリザベス1世も、結局は男たちの陰謀に勝てなかった。
メアリーがエリザベス1世の暗殺を計画していたという証明を見せつけられる。捏造だとわかっていても、証拠を提出されたエリザベス1世はあらがうことができない。結果としてメアリーに死刑を申しつける。このあたりのシーンは本当に切ない。
だけど結果として、エリザベス1世はメアリーとの約束を守る。彼女のあとを継いでイングランド、そして同時にスコットランドの王となったのは、メアリーが産んだ息子だった。それまで別の王が君臨していたけれど、メアリーの息子が初めて両国を統治する王となった。
この時代のことなので、実話とはちがう部分はあるかもしれない。でもふたりの女性の不思議な運命とその結末に、とても心動かされる物語だった。
メアリーを演じたシアーシャ・ローナンは最高だった。ボクは『ハンナ』という映画で彼女を知ったけれど、ずっと素敵な女優さんだと思っていた。この映画は彼女の代表作にあげてもいいと思うほど素晴らしかった。
そして驚いたのがエリザベス1世を演じたマーゴット・ロビー。この人はマジで天才だよね。映画によって完璧に化けてしまうので、まるでカメレオンのような女優さんだと思う。そして化けるだけでなく、その姿が心に強く残る。このふたりの演技を見るだけでも、値打ちのある作品だと思う。
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