ホッとした予定調和だった
映画や小説において予定調和の結末は嫌われることが多い。作者が想定外の結末を用意してくれることを期待するから。
だけど人間心理としてハッピーエンドが好きな人は多いはず。いまのように不安ばかりの現実世界だと、せめて物語くらいはホッとしたハッピーエンドを体験したい。そういう意味において、ずっとシリーズで読んでいた作品のラストは、ホッとして心が温かくなる予定調和だった。
『シャドウハンター 硝子の街』下巻 カサンドラ・クレア著という小説。上巻についての感想は『天使と悪魔は相思相愛かも』という記事に書いているので参照を。
いよいよ邦訳されているこのシリーズの最終作。全3部あって、文庫でそれぞれ上下巻あったので、この作品で6冊目になる。主人公はクラリーという16歳の高校生とジェイスという17歳の青年。
クラリーは普通の人間として育てらたけれど、二人ともシャドウハンターという一族で、現実世界に侵入する妖魔を倒すために天使によって作られた種族。さらに吸血鬼、人狼、魔法使い、そして妖精というアンダーワールドの存在が関わってくる物語。
クラリーとジェイスは愛し合っているけれど、全6冊のうち5冊までは二人が兄妹であるとして物語が進行していた。父親はヴァレンタインという裏切り者のシャドウハンターで、妖魔をこの世界に大量に送り込むことでシャドウハンターの世界を乗っ取ろうとしていた。
だけど物語の展開として、この二人が兄妹であるはずがない。ただ5冊目まではそのあたりが巧妙にぼかされている。ヴァレンタインの恐ろしい実験によって、ジェイスに妖魔の血が、そしてクラリーには天使の血が混ぜられた。だから二人は惹かれ合うんだ、と読者に思わせた。
でもようやく最終巻になって、ジェイスがヴァレンタインの息子でないことがわかる。妖魔の血を受けたクラリーの本当の兄はセバスチャンと名を変えて、シャドウハンターの世界へ潜入していた。
ジェイスがヴァレンタインに育てられたのは事実だけれど、クラリーと同じように天使の血を混ぜた胎児を自殺した女性のお腹から取り出し、周囲に本当の息子と錯覚させるために育てていた。
まぁ本音を言えば、最終巻でそんなことを言い出すのは反則ワザwww もしそうなら、もっと前にセバスチャンを登場させておかないとダメ。結論としてはヴァレンタインの野望は破れ、レギュラー陣は誰も死ぬことがない。
そして兄妹ではないとわかったクラリーとジェイスは、互いを愛する人として受け入れるというラスト。ヴァレンタインの野望をくじいたのは、クラリーが受けついた天使の能力だった。
クラリーが能力を駆使することで、反目していたシャドウハンターとアンダーワールルドの存在たちを結束させた。それによって妖魔の軍団に勝利することができたという結末。少し宗教っぽい世界観が、もしかしたら日本人にはなじめないラストかもしれない。
ただ最初にも書いたように、予定調和だけれどホッとしたラストだった。クラリーとジェイスの幸せそうな様子を見るだけで、読者も安堵のため息をつけると思う。原作では続編も出ているけれど、邦訳はされていないらしい。
この作品の映画は最低だったけれど、ドラマは原作に忠実らしい。機会があったらぜひ見たいと思う。動いているクラリーとジェイスに会いたいからね。
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