幽霊より恐ろしいホラー
一般的にホラー作品といえば幽霊が登場する。あるいはゾンビかな。幽霊でなくても、悪魔や殺人鬼という存在がホラーには欠かせない。
ところがそんな連中がまったく出てこないのに、これまでにないほどの恐怖を覚えた小説を読んだ。
『ジェラルドのゲーム」スティーブン・キング著という小説。著者のホラー作品には、これまで物語を象徴するようなキャラが登場してきた。『キャリー』を筆頭に、『IT』に登場するピエロのような存在が、読者を恐怖の世界へといざなった。
スティーブン・キングのもう一つの傾向として、登場人物が多いということがある。それゆえ大抵の邦訳本には、巻頭に人物紹介が書かれている。この作品も同様に人物紹介が書かれていたけれど、それはたったの二人。
物語の主人公であるジェシーという女性と、その夫のジェラルドだけ。なのにこの作品は、著者の作品でもトップ3に入るほどの怖さだった。
状況はひたすらシンプル。ジェラルドは弁護士で、妻と二人で人里離れた湖畔の別荘で過ごしていた。ジェラルドには変な性癖があって、妻の手の自由を奪ってセックスをすることに楽しみを覚えていた。最初はスカーフだったけれど、やがてそれは手錠に変わった。
ジェシーも最初は興奮したものの、そのうち嫌になってきた。この日も別荘でベッドと両手に手錠をかけられて、バンザイをした状態で裸になっていた。何度も夫に嫌だと懇願したけれど、ジェラルドは耳を貸さない。なぜならこれこそ『ジェラルドのゲーム』だったから。
興奮した夫が迫ってきたとき、ジェシーは本気で抵抗した。それで思わずジェラルドに蹴りを入れたら股間に命中。苦痛に顔を歪めた夫は悶絶し、心臓発作を起こしてしまう。そしてベッドから転落すると頭から血を流して絶命してしまった。
あわてて夫を助けようとするけれど、両手は手錠に繋がれている。鍵は離れた場所にある。手元に電話もない。半裸状態のジェシーは、ベッドから身動きできないという状況に追い込まれてしまう。基本的な設定はこれだけ。だからこの小説の大半は、ジェシーの内面世界の描写になる。
ジェシーは11歳のとき、父親から性的虐待を受けていた。たった一度のことだけれど、そのことが彼女のトラウマとなっている。この日に夫が迫ってきたとき、そのときのことを思い出したことで抵抗してしまった。
この状況からどうして抜け出すか? 文庫本で500ページを超える小説だけれど、400ページを過ぎてもジェシーはまだベッドにいる。ほぼ二日ほどをベッドの上で過ごした。脱水状態で苦しみながら、死の恐怖と戦うことになる。その有り様が壮絶すぎて、まじで恐怖を感じてしまった。
厄介だったのは野犬が夫の死臭をかぎつけたこと。ジェシーは身動きできない状態で、夫の遺体が野犬に食べられるのを見ているしかない。そして自分が死ねば、同じように食べられてしまうだろう。
そのうえ、深夜に正体不明の男が別荘に侵入してきた。これはラスト近くでわかるけれど、死体をもてあそぶ変質者で、おそらく夫の遺体を見つけて近づいたきたのだろう。最悪の場合、ジェシーを殺してその死体を手に入れようとするかもしれない。
人間は孤独になると、心の声がリアルに聞こえてくるのかもしれない。ジェシーは学生時代の友人や、セラピストたちとリアルに会話するようになる。統合失調症のような状態だろう。だけどその心の声が、彼女を窮地から救ってくれた。
ジェシーはどうやって手錠から逃れることができたのか?
そのことを知りたい人は、ぜひとも本編を。ただしかなり覚悟したほうがいい。ボクはその場面を読んでいるだけで、失神しそうに怖かったからね〜www
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。