物理学は心を証明できるか
人間の心や意識は物理学によって証明できるのか?
この問いは人間の死生観や宗教観に大きな影響を及ぼす。もし可能だということなら、人間の魂が否定されるようなもの。『死』は物理的な終わりに過ぎず、死後世界や生まれ変わりは人間の妄想でしかないという結論に至る。
逆に証明不能ということになれば、死が終わりでないという思想が優位を持つ。これまた社会的な影響を無視できない。いまの段階では、その命題について物理学は明確な答えが出せない。いや、もしかしたら出さないほうがいいのかもしれない。
『心は量子で語れるか』ロジャー・ペンローズ著という本。著者は2020年のノーベル物理学賞を受賞した人物。そのことが決まる以前に図書館で予約していた本で、結果として受賞後になってこの本を手にすることになった。
ノーベル物理学賞を受賞したのは、ブラックホールの形成が一般相対性理論の強力な裏付けであることを発見した功績による。過去にはスティーブン・ホーキング氏と共同研究していたという経歴もある。それゆえこの本の内容に対して、ホーキング氏が述べた意見も掲載されている。
どうにかこうにか読了したけれど、久しぶりに難解だった。できる限り数式を使用せずに図で説明されているけれど、数学の知識がないボクにはキツい。何度も挫折しそうになった。おそらく完全に理解できたとは言えない。
この本は人間の心について書かれたもの。心や意識というものが、物理学によって証明できるかどうかを検証している。著者の結論によると、それは可能だということになる。ただしそこには大きな壁がある。
脳におけるシナプスの働き等は、脳科学や物理学によって説明できる。だけど人間が使っている直感やインスピレーションというものの説明が難しい。それは人間の自由意志にも関わってくる。
人間は自由意志を行使しているように思っても、意思決定の前に脳が命令を出している。そこには人間の意思を超えた何らかの働きがあるように感じられる。ボクがこの本で理解した範囲によると、脳の微細な神経管を通過する信号を説明しようとすると、量子力学が必要となるそう。
つまり量子力学の宿命として、観察することによって確実な結果が得られない。観察者の視点が介入することで、その結果に定性が見いだせないとのこと。これは人間の心だけでなく、いまの物理学か抱えている問題でもある。
ニュートンやアインシュタインが基礎を作った古典的なマクロの物理学と、量子力学のようなミクロの物理学には架け橋が存在しない。それぞれに使用している限りは問題ないけれど、双方の理論を付き合わせると矛盾が発生してしまう。
これと同じことが、意識の研究にも起きているらしい。だから古典物理学と量子論との融合が完成しないと、人間の意識を物理学が証明するのは難しいということらしい。ボクの理解だとそういうことになる。
だからペンローズ氏によると、いまの段階では人間の意識をコンピュータによって再現するのは無理とのこと。つまりAIが心を持つことはないということかな?
この分野に関しては、ある程度は曖昧でもいいように思う。曖昧さは想像力の介入する余地を生むので、物語にするという楽しみがあるからね。とにかく、久しぶりに難しい本だったwww
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