誰も彼もが狂っている
ボクは比較的早く本を読めるほう。ビジネス書なら、たいていは１日で１冊を読んでしまう。ただ小説に関してはじっくり読み込むようになったので、以前に比べて読了まで時間がかかるようになった。それは作者の意図や思考過程を追いかけようとしているから。
そんなボクがかなり手こずった小説がある。文庫本で500ページ足らずの物語なのに、なんと読了まで10日近くもかかった。平均して１日に50ページ程度しか読めない。その理由は明確。
なぜなら登場人物の誰も彼もが狂っているから
『キャッチ＝22』上巻 ジュセフ・ヘラー著という小説。なんと10日もかかったのに、これで上巻だからね。だからいまは下巻を読んでいる。
物語の舞台は第二次世界大戦末期。イタリアのピアノーザ島という小さな島があり、そこにアメリカ空軍の爆撃部隊が基地を構えている。そこから飛びだって、イタリアの各地を爆撃する。
主人公はヨッサリアンという名の大尉。彼を取り巻く部隊の仲間の日常や、戦闘シーンが描かれた小説。読むのに時間がかかるのは、時間が複雑に前後したり、登場人物がやたら多いから。いちいち前のページに戻って確認しないと、誰のことなのかわからなくなってしまう。
でも読了に時間がかかる決定的な理由は、その登場人物たちが『狂っている』ということ。やることなすことはちゃめちゃで、通常の感覚による理解を遠ざけてくる。全体にブラックユーモアが散りばめられていて思わず吹き出すけれど、その笑いは狂気の裏返しだけに恐ろしい。
ヨッサリアンはどうにかして出撃を回避しようとする。そのために病気だと言い張ったり、自分が狂っていることを証明しようとする。だけど狂っている人間が、自分のことを狂っているとは言わないもの。だからヨッサリアンは絶望的な想いで日々を過ごしている。
『キャッチ＝22』というタイトルは、この小説がベストセラーとなったことで、「どうあがいても身動きの取れない状態』を表すスラングとなったらしい。つまりジレンマを感じている人は、自分が『キャッチ＝22」だと言うのだろう。
小説のなかで『キャッチ＝22』は兵士を縛り付ける規則として登場してくる。例えば軍医に気が狂ったと申し入れると除隊できる。だけど本当に気が狂った人間は申請などしないから、申請した人間は気が狂っていないと判定される。つまり絶対に除隊できないという規則。
出撃回数も上限があったはずなのに、上官の気まぐれで数が増えていく。あと少しでアメリカに帰れると思ったヨッサリアンは、ますます狂気の世界へと引き込まれていく。それは周囲の人間も同じで、物語そのものが支離滅裂な展開を見せてくる。
1961年に出版された作品で、当時は意見が別れたそう。アメリカ史上最高の小説だという声もあれば、駄作だという意見もあった。結果としてアメリカではなくイギリスで火がついて世界的なベストセラーになり、1970年には映画化されている。
さて下巻はどうなっていくんだろう？ 少し読み始めたけれど、相変わらず訳のわからない世界が続いている。だけど気になってやめられない。誰も彼もが狂っているということは、正気の人間がどこかにいる伏線だと感じている。でないと『狂っている』ことを認知できないから。
狂った１年だった2020年は、狂った物語を読みながら終わりそうだなぁwww
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