まるで予言のような作品
古い映画を観ていると、よくその時期に公開できたなぁと驚くことがある。代表的な例で言えば『カサブランカ』という作品。第二次世界大戦の真っ最中である1942年に公開された映画で、ドイツ軍から逃げる登場人物たちの葛藤が描かれている。まだ戦況が確定していない時期なのに、とても勇気のある公開だったと思う。
同じく公開された時期のせいで、まるで予言のように思える映画を観た。
2021年 映画#2
『バルカン超特急』(原題:The Lady Vanishes)という1938年のイギリス・アメリカ映画。アルフレッド・ヒッチコック監督でということで安心して観たけれど、期待どおりにめちゃ面白い映画だった。
いわゆるスパイアクション映画なんだけれど、1938年という公開年が気になる。翌年の1939年にはナチスドイツがポーランドに侵攻して第二次世界大戦が始まる。この映画で登場する国はバンドリカという架空の国。だけど兵士の軍服を見るとドイツだとわかる。
山深いバンドリアの国の国境近くで、なだれのせいで列車が遅れる。仕方なくホテルで一夜を明かすことになって、そこでこの映画の登場人物たちが紹介される。さらにスパイが活動していることも匂わせてある。
主人公はアイリスという若い女性で、結婚式をあげるためにロンドンへ向かうつもり。だけど彼女は結婚を迷っていた。それ以外にアイリスとホテルでトラブルを起こすギルバートというクラリネット奏者や、家庭教師の中年女性であるミス・フロイ、さらにクリケットの試合のためにロンドンへ戻ろうとする二人組の男性等が登場する。
翌日ホテルを出て列車に乗り込んだ一行。ところが家庭教師のミス・フロイを狙ったかのように落とされた植木鉢に、運悪く通りかかったアイリスが当たってしまう。それで脳震盪を起こした彼女は、ミス・フロイに解放されて列車に乗り込む。
ところがウトウトして目が覚めると、ミス・フロイの姿がない。気になって同じ個室にいた乗客に尋ねると、あなたはずっと一人だったと言われる。食堂車でミス・フロイとお茶を飲んだアイリスは、食堂車の従業員にも尋ねるけれど、あなたはずっと一人だったと言われてしまう。
このパターンにそっくりの映画がある。ジョディ・フォスターが主演した『フライト・プラン』という作品。娘と一緒に飛行機に乗ったのに、ふと目が覚めると娘なんていなかったと乗客たちに言われる。『フライト・プラン』のネタ元がこの映画らしい。
最終的に協力してくれたのは、アイリスとホテルで揉めたギルバート。そして彼の協力によって、ミス・フロイがイギリスのスパイで、国家の大事に関わる情報を持ち帰るところだった。そのことに気づかれ、彼女は拉致されて殺されようとしていた。
でも二人の活躍でミス・フロイは無事に救出されて、バンドリカの国境を越えることができる。銃撃戦もあって、まさにドイツ軍との戦いだった。最後におまけとして、結婚をやめたアイリスがギルバートと恋仲になるというエンディング。
冒頭のホテルのシーンはやや退屈だったけれど、列車に乗ってからの展開は最高だった。さすがヒッチコック。さらに1938年という不穏な時期にこの映画を公開した勇気にも感動した。この時代にしては最高のサスペンス作品だったと思う。
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