決定論を生きる難しさ
今月の下旬から6月にかけて、新作小説を執筆する予定。以前から何度か触れているけれど、人間の自由意志をテーマにしている。
ところが主人公は自由意志を持たない人間を想定している。つまり決定論にしたがって生きている。決定論というのは人間に自由意志が存在しないという考え方で、この世で起きることはあらかじめすべて決まっていると自覚している人。
現代の脳科学者の多くはこの決定論を支持している。脳の機能を研究すればするほど、人間には自由意志が存在しないという証拠が出てきているから。ただそれに反対する意見も多く、鍵を握るのは相対性理論と量子論を結びつける新しい物理理論だろうとのこと。
ともあれそんな難しいことを考えていたら小説にならない。そこでボクはある実験を今月になってずっとやっている。それは主人公と同じ生き方をすることで、この世界をどのように感じるかを実感するため。
わかりやすい例をあげよう。あなたは国道を横断してスーパーへ買い物へ行こうとしている。その日は創業祭で、早い者勝ちの商品が用意されている。ところが主要幹線道路なので、信号待ち時間が長い。
ふと前を見ると、横断歩道の信号は青。全速で走ればどうにか横断できる。だけど早足程度なら間に合わない。もし赤信号になれば、スーパーの到着に乗り遅れることになる。選択肢は2つ。全速で走って青信号で渡るか、諦めて次の信号まで待つか。
自由意志の存在を信じる人は、ここで悩むことになる。そしてどちらかの決断をする。
全速で走って青信号を渡ることで、目的の商品を手に入れられたとしよう。あるいは次の信号にしたことで、目的の商品を逃したとしよう。
どちらにしてもその結果は自分の『責任』として受け入れるしかない。うまくいけば走って良かったと思うだろうし、後者の場合なら走れば良かったと後悔するだろう。まぁ、これがボクたちのほとんどが毎日経験していること。
同じケースで決定論の人が買い物に行く場合、どのような心理構造になるだろうか? これがなかなか面白い。
自由意志の場合と同じように、走るか歩くかの選択肢は発生する。そしてそのどちらかを決める。どちらを選択するにしても、決定論者が感じることは同じ。そこには達成感も後悔もない。なぜなら決まっていたことだから。
もし走ったとしても、それはそうなるように決定していたことになる。歩く場合でも同じ。つまり自分の決断そのものが、すでに最初から決まっていたという発想になる。だから商品が手に入るかどうかについても、それはすでに決まっていたこと。
この感覚を実際に体験してみると、とても面白い気づきがある。決定論をある程度確信しているボクでさえ、自由意志というものが明確に機能している。だから信号を目にしたときに『迷う』ことになる。本当なら決まっているはずなのに『迷う』という心理が発生する。
ところが強烈な決定論者に言わせれば、その『迷い』もあらかじめ決まっていることになるwww こうなるともうわけがわからない。
まだ実験中なので、決定論を生きることによる影響はここでは触れない。ただ、精神的には強い安定感をもたらすのは事実。人間の心の平安は決定論にあるような気がしている。
ただ決定論を意識して生きるとき、ある難しさを感じた。それは先程の『迷い』というもの。
もし結果が決まっているなら、走ろうかどうか迷う必要がないかもしれない。ただボクは走る。それは『努力』についても言える。決定論者にすれば結果が決まっているんだから、わざわざしんどい努力をする必要はないと思うかもしれない。決定論者が陥りやすいのは『諦め』の気持ちが起きやすいということ。
どうせ頑張っても結果は同じ。そう思うことで『努力』をしなくなる可能性がある。だけどそれは決定論の生き方について、ある一面を見せているだけ。
ボクの考える決定論はちがう。RPGのゲームを想像するとわかりやすい。ゲームはプログラムされているので、結果は決まっている。でもどのステージまでゲームを楽しむかは、その人の気持ちにかかっている。
ボクは生きている限り、より多くのステージを体験したい。それがいい結果かはどうかは別。だけどせっかく生まれてきたんだから、より多くのクリアを重ねて次のステージを体験したい。だから結果が決まっているとしても全力で進む。だから信号が渡れそうなら、迷うことなく走る。
諦めに生きる人を消極的決定論、そしてボクのように全力で生きる人を積極的決定論と勝手に名付けている。主人公には後者になってもらうつもり、だからいまは自分で実験しながら主人公の気持ちを体験している。
でも厳密にいうのなら、人によってどちらの決定論を採用するかも決められていることになる。なんとも不思議な気持ちだよなぁwww
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