かかしの目的は笑わせること
アメリカほどロードムービーが似合う国はない。国土の広さと州による空気感のちがいが、大陸を移動することによって興味深いドラマを生むんだと思う。
そんなロードムービーの代表作といっていい映画を観た。旅をする主演二人の演技の素晴らしさゆえ、時間を忘れて見入ってしまう作品だった。
2021年 映画#38
『スケアクロウ』という1973年のアメリカ映画。写真のジーン・ハックマンとアル・パチーノが主演している。こんな豪華なキャストなのに、なぜボクはいままでこの作品を観ていなかったのか謎で仕方ないwww
とにかく二人は若い。そして最初に書いたように、二人の演技から目が離せない。少し調べてみると、1973年は二人にとって意味のある年だった。ジーン・ハックマンは前年に『ポセイドン・アドベンチャー』にて主演。そしてアル・パチーノも前年に『ゴッド・ファーザー」で主演している。
二人の俳優を代表する作品に出演したあと、この映画で共演している。そりゃ二人の演技がすごいのは当然だろう。ほぼこの二人が、最初から最後まで物語を引っ張っていった作品だった。
ジーン・ハックマン演じるマックスは、6年の刑期を終えて刑務所から出所したばかり。血の気が多く、とにかく喧嘩っ早い。ピッツバーグに多額の預金があって、それを元手にカーウォッシュの事業を興すのが夢だった。
アル・パチーノ演じるライオンは、5年間も船乗りの仕事をしていて、デトロイトに残した妻と自分の子供に会いに行こうとしていた。子供の性別を知ることなく船に乗ってしまい、結果として妻と子供を捨てたのと同じ。許してもらえるとは思えないが、子供にひと目会うためにデトロイトに行こうとしていた。
ヒッチハイク中に偶然出会った二人は、やがて一緒に旅をする。そしてライオンを信用したマックスは、彼と一緒に共同経営者になることを承諾させる。でもどの街に行っても喧嘩をしてしまうマックス。そんな彼に対して、ライオンはあるコツを教える。
それが『スケアクロウ』ということ。つまりかかし。かかしがカラスを寄せ付けないのは、怖がっているからじゃない。カラスは滑稽なかかしを見て笑う。だからそんな面白いかかしを置いた農夫の畑を荒らす気持ちがなくなる、というのがライオンの自説だった。
そしてそのとおり、ライオンはトラブルに巻き込まれても周囲の人を笑わせる。最初はそんなライオンに反発していたマックスだけれど、ケンカが元で1ヶ月だけ刑務所に再収容されたとき、ようやく心を入れ替える。
そして出所した二人は、ピッツバーグへ向かう。その前に性別さえ知らない子供にプレゼントを渡したいライオンは、マックスと一緒にデトロイトへ向かう。そして妻のアニー接触すると、2年前に再婚したと告げられる。
ライオンはそのことは覚悟していた。だけどひと目だけいいから子供に会ってプレゼントを渡したい。ところがアニーは嘘をつく。子供は死産した、と。あなたのせいで子供は命を落とした、となじる。
性根の優しいライオンは、その嘘を信じて錯乱してしまう。自分を責めるあまり、統合失調症になってしまう。そんなライオンを、マックスは見放さない。俺がお前を絶対に治して、二人で商売を始めよう。そういい残して、ピッツバーグ行きのバスに一人で乗るシーンで終わる。
このラストシーンのマックスはかっこいい。デトロイトからの往復切符を買った。そのために全財産をはたいた。なぜなら入院したライオンを迎えにくるため、自分の預金を手にしてデトロイトに戻ってくるつもりだから。
乱暴者だったマックスがライオンによって優しさを取り戻す。そしていつも必死で他人を笑わせていたのに、ショックのあまり自分を見失ったライオンを救おうとする。そんな男たちの深く、そして複雑な友情に感動させられる素敵な物語だった。
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