変化を感じ、信じる力
人間というのは基本的に保守的な生き物。変化を恐れ、できれば現状を維持しようとする。不思議なことに現在の自分に不満を持っていても、何かを変えることに抵抗感を覚える人は多い。それゆえ人生に影響を及ぼす変化の兆しを感じても、あり得ないと思って無視してしまう。
だけどそんな変化を敏感に感じ取り、勇気を出してそれに沿った行動を起こせる人がいる。そしてすぐに結果が出なくても、もがきつつ自分の選択を信じる。そこまでやれた人には、常人がなし得ない報酬を得ることができるのだろう。
まさにそんな体験をした人たちの実話を描いた映画を観た。
2021年 映画#43
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(原題:The Big Short)という2015年のアメリカ映画。とにかく豪華キャストに惹かれた作品。写真のライアン・ゴズリング、クリスチャン。ベール、スティーブ・カレル、そしてブラッド・ピットが出演している。
リーマン・ショックという言葉を覚えているだろうか。実際に起きたのは2008年で、ボクは明確に記憶している。なぜならこの年に京都のマンションを売りに出して、神戸に引っ越すことにしていたから。
売り出しは5月だったけれど、日本でさえどことなく景気に不穏な空気が流れていた。それでもどうにか7月に売れて売買契約を済ませた。ところがまだ引き渡しがすまない2008年9月15日に、投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破産した。そのことによって起きた世界的な不景気がリーマンショック。
いわゆる不動産バブルが弾けたもので、問題となったのはサブプライムローンというもの。不良債権化した住宅ローンを証券化して、評価の高い債券を混ぜて売ってしまう。だから不良債権だということが見えづらい。景気がいいときはローン破綻する人が少ないので目立たなかった。
でもすでに2004年から2006年にかけて、このバブルが近いうちに崩壊することを見抜いた人物がいる。それはクリスチャン・ベール演じるバーリ。彼は確実にサブプライムローンが破綻することを見抜き、大幅な空売りをしかけた。
空売りというのは、証券が手元にない段階で、証券を借りることで売ってしまう信用取引。期日が来たときに買い取ればいい。つまり100万円で取引した債券の価格が期日に10万円まで下がっていたら、90万円の儲けになる。この空売りを大量に仕掛けた。
誰もがバカだと笑う。それでもバーリは耐えた。そして伝わる人には伝わる。その噂を聞きつけた人物や、間違い電話をきっかけにして空売りしている人物を知った人たちも動いた。それが写真の他の3人たち。
ただアメリカの金融業界も必死。明らかに債務不履行が出ているのに、証券の価格を下げようとしない。暴落してしまえば、空売りした連中が儲けるだけでなく、世界経済が破綻することになりかねないから。大勢の失業者や自殺者を生み出すことになる。
このあたりの緊張感が、この映画の見どころ。明らかにバブル崩壊の兆候が出ているのに、証券の値段が下がらない。主人公たちがパニックになったり、怒り狂ったりしている姿に、自分を信じることの難しさを感じさせられた。結果としては、彼らの予想どおりリーマンショックが起きてしまう。
実話だけに、なんとも切ない物語だった。だけど映画の構成としてコメディタッチにしてあるし、マーゴット・ロビーやセレーナ・ゴメスが本人役で登場して、この時代の現状を解説するのに笑ってしまった。
専門用語が飛び交うので難しい印象はあるけれど、空売りの仕組みさえ理解していれば最高に楽しめる作品だと思う。
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