懐かしい風が吹く『オルタネート』
洋楽はかなり詳しいボクだけれど、日本のアイドルは名前を知っている程度。NEWSというジャニーズのアイドルグループがある。個々のメンバーについてはよく知らないけれど、まだ京都に住んでいるころに彼らの名前を強く意識したことがあった。
あるバンドのライブに大阪城近くの小さなホールへ行った。そのとき大阪城ホールでNEWSのライブがあって、若い女性たちが大勢集まっていた。余ったチケットを購入しようとプラカードのようなものをぶら下げている人もいた。
とにかくファンたちのパワーに圧倒されて、NEWSというグループ名がしっかりと脳裏に刻み込まれていた。そして今年になって、そのNEWSのメンバーのひとりの名前を何度も目にすることになった。なぜなら直木賞、かつ本屋大賞の候補となり、そして吉川英治文学新人賞を受賞されたから。
気になっていたその作品を、ようやく読了することができた。
2021年 読書#48
『オルタネート』加藤シゲアキ 著という小説。高校生が主人公の小説で、いわゆる群像劇になっている。ちらちらっと噂のようなものを目にして想像していたけれど、そんなボクの陳腐な想像をはるかに超える素敵な物語だった。
『オルタネート』というのは架空のSNSで、高校生限定のマッチングアプリのようなもの。このアプリ自体は脇役だけれど、登場人物たちに大きく関わってくる。主人公となるのは3人で、ウキペディアから抜粋させてもらった。
新見蓉(にいみ いるる):円明学園高校3年の女子生徒で、調理部部長。高校生の料理コンテスト番組「ワンポーション」のペアの相手を探している。「オルタネート」を利用していない。
伴凪津(ばん なづ):円明学園高校1年の女子生徒。「オルタネート」のマッチング機能で運命の相手を探し求めている。
楤岡尚志(たらおか なおし):大阪の高校を中退し、かつてのバンド仲間を追って上京してきた。高校生ではないため、「オルタネート」を利用することができない。
見てのとおりかなり変わった名前。ボクも自分の小説にはできるだけ印象に残る名前を探すけれど、この作品の著者には脱帽。よくこんな名前を思いつくなぁ、と感心しながら読んでいた。
これから読む人も大勢いるだろうから、ネタバレはしないでおこう。最初はこの3人の物語が別々に進行していくけれど、少しずつ距離が縮まってくる。そしてエンディング近くに開催される円明学園高校の学園祭で、この3人と彼らに関わる人たちが集結する。
『ラブ・アクチュアリー』という映画を観たことがある人なら、ラストの学芸会シーンを思い出してもらうとわかりやすい。意図的でありながらも、自然に登場人物たちが関わっていく。そこには高校生らしい夢や希望、そして不安や自己嫌悪が入り混じって混沌としている。
とにかく加藤さんの書く文章が美しい。風景が目に浮かび、季節を伝える風が本の中から吹き付けてくるような印象だった。そしてその風は、どこか懐かしい。ボクの高校生時代と状況は随分ちがうけれど、同じ匂いのする風だったように思う。
何度も読みたくなる物語だし、登場人物たちのその後も知りたくなる。大きな事件はないけれど、とても心に残る物語だった。
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