DV男を食い尽くした闇
毒をもって毒を制す、という言葉がある。小説や映画でよく使われる設定だけれど、物語にする場合扱いが難しい。なぜならどちらも毒を持っていることで、下手をすれば関わる人間に取り返しのつかない害悪をもたらすから。
そんな難しい設定を完璧な物語にした小説を読んだ。
2021年 読書#49
『ローズ・マダー』下巻 スティーブン・キング著という小説。上巻については『DV夫からの逃亡を支えた絵画』という記事に書いているので参照を。
主人公はローズという女性。夫のノーマンは優秀な刑事だけれど、狂気に支配されたDV男。妻に暴力をふるうことに快感を覚え、何度も入院させるような怪我を負わせている。そのうえ過去には、せっかく妊娠した子供を暴力によって流産させている。
上巻では突発的に逃げることを決意したローズが、自宅から1300キロ以上も離れた場所に新しい生活の場を見つける。小説の音読という天性の資質を活かして仕事を見つけ、ビルという恋人もできた。そんなローズを支えてくれたのは、ビルと出会った質屋で見つけた不思議な絵画。
その絵画の正体は、この世と異世界をつなぐ扉だった。そしてその異世界にはローズそっくりの女性がいる。一度だけその世界に取り込まれてしまったローズは、その女性の子供を助けることである確約を得る。
それは「わたしは報いる」という言葉。ここまでが上巻。
ノーマンはじわじわとローズに近づいてくる。そしてついに彼女に保護施設を紹介した男性を見つけ、ローズの居場所を聞き出す。もちろんその男性は殺された。ノーマンはすでに狂っていて、相手を咬み殺すという異常な行動を見せている。
下巻ではローズたちの保護施設が主催するキャンプにノーマンが潜り込もうとする。ところが機転を利かせた保護施設の女性によって、重傷者を出しながらもノーマンをその場から追い出す。ところがノーマンはさらに殺戮を重ねることで、ようやくローズの住んでいるアパートを見つけた。
それまでに保護施設の女性が二人も殺され、さらにローズの自宅を監視していた警察官二人もノーマンによって殺された。やがて監視警官に化けたノーマンによって、ローズとビルは最大の危機を迎える。
そのときローズの自宅の絵画の扉が開く。結果としてその絵の世界に逃げ込むことで、ローズへの約束が履行される。その異世界に暮らす存在によって、ノーマンはズタズタに殺されてしまう。
ただしそれでハッピーエンドとはならない。その世界は魔の世界でもある。スティーブン・キングの作品で何度も語られる異世界で、『IT』という作品や『ダークタワー』シリーズに登場する悪魔たちの巣窟のような世界。
それゆえローズはその悪魔に魅入られてしまう。無事にビルと結婚して娘を産むけれど、長期間に渡って魔の誘惑に苦しむことになる。毒を以て毒を制することの弊害が、そのまま主人公に影響してしまうという物語だった。
物語の後半部分は異世界が中心となるので、馴染みのない読者にはとっつきにくいかもしれない。だけど著者のファンなら、この独自の世界観がリアルに理解できるはず。久しぶりに狂気と恐怖をリアルに味わった小説だった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする