大阪市警視庁って知ってる?
あらたな作品と出会うことで、自分の視野がグッと大きく広がる。常に新しいミュージシャンを追いかけているなか、今月になって素敵な出会いがあった。イギリスのミュージシャンでGriff(グリフ)という20歳になったばかりの女性。
ボクは日本人ながらイギリスで活躍しているリナ・サワヤマというミュージシャンを応援している。イギリスのミュージシャンを表彰するブリット・アワーで、彼女は新人賞にノミネートされていた。ところが受賞したのはグリフだった。グリフって誰よ?
そう思って調べてみると、アジア系の女性だった。イギリス生まれで、ジャマイカとフィリピンのハーフとのこと。それで気になってチェックしてみると、このグリフがなかなかすごい。華奢な身体なのに、声が太くて声量がある。そして楽曲も最高だった。これなら新人賞も当然だと思った
グリフは今月になってニューアルバムをリリースしている。『One Foot In Front Of The Other』というタイトル。このアルバムがいいんだよね。
ここ数日はライブ映像が公開されていて、ライブでの実力も間違いなし。不思議な魅力のあるシンガーで、おそらくこれから世界の音楽シーンを席巻しそうな予感がしている。最新曲はこのアルバムのタイトナンバー。この曲もいいけれど、4ヶ月ほど前にリリースされた曲を紹介しようと思う。
『‘Black Hole』というタイトル。最新曲に比べてマイナー調の曲だけれど、なんともいい雰囲気。これから注目のアーティストだと思う。
そして小説の世界でも新しい出会いがあった。直木賞の候補となったことで出会った作家。久しぶりに最初から最後まで興奮が止まらない作品だった。
2021年 読書#60
『インビジブル』坂上泉 著という小説。いわゆるミステリー小説。ところが事件が起きる舞台が少しユニーク。そしてそこに登場する警察名に驚いた。
『大阪市警視庁』という組織。最初は創作かと思ったけれど、実在していたのでビックリ。ボクはまったく知らなかった。
太平洋戦争後にGHQは日本の戦前の警察組織を解体した。人口が一定以上ある自治体には自治警察隊が設置され、その要件を満たさない地域には国民地方警察という組織が置かれた。わかりやすい例でいえば、ニューヨーク市警とFBIのような状態。
警察の組織が二重化されていて、いまの日本では考えれらないような状況だった。それで発足したのが昭和23年に発足したのが大阪市警察局で、翌年には大阪市警視庁という名前に変更されている。東京に対する対抗意識が感じられて、ボクはこの名前が気に入った。
最終的には昭和29年に現在の警察組織に法改正されているので、実質は五年ほどしか存在していない。この小説の舞台は、警察が激動の変化を迎えた昭和29年の大阪だった。だからまるでパラレルワールドの世界を覗いているような感覚があって、読み出すと止まらなかった。
新しい小説なので、ネタバレはやめておく。犯人がわかったら面白くないからね。主人公は新城という新人刑事。先輩刑事からは『昭和生まれ』と揶揄されて、従軍経験も、戦前の警察組織も知らない世代。
国会議員の秘書が殺害される。さらに茨木市の国鉄線路と大阪の湾岸でも死体が出る。その遺体に共通しているのは銃剣で刺されて、麻袋を顔にかけられていること。国会議員の汚職だけでなく、戦中の満州、そして戦後の日本で実施されていたアヘン栽培の実態を描いた作品。
新城とコンビを組んだのが、合同捜査となったことで捜査本部に参加した国民地方警察の警部補である守屋という刑事。守屋は帝大卒業のエリートで、警察が統合したあとは警察庁の幹部となるような人物。この二人の反目と、やがて生まれる信頼関係によって事件が解決していく物語。
興味深いのは大阪市警視庁の刑事たち。現在の警察組織とちがって、大阪市独自の気構えと矜持を有している。やがて統合する法改正に抵抗するかのように、大阪市警視庁として最後の事件に立ち向かっていく。直木賞を受賞できなかったのが不思議なくらいで、とても素晴らしい物語だった。
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