異世界が普通に感じる恐怖
エンタメ作家の技量の高さは、あり得ないことを普通だと感じさせられるかどうかで証明できると思う。化け物の徘徊している世界が、違和感なく現実の世界とつながってしまう。気がついたら自分の周囲には恐怖しかないという状態。
そんな作品を書かせたら右に出る人がいないというスティーブン・キング。久しぶりに彼の描く恐怖をリアルに体験した。
2021年 読書#77
『図書館警察』スティーブン・キング著という小説。2つの中編小説(といってもスティーブン・キングの中編であって、普通の作家なら長編といっていい分量になる)を収録したもの。文庫本で700ページ近くあって、読了するのに1週間ほどかかってしまった、
収録されているのは『図書館警察』と『サン・ドッグ』という2作品。簡単に紹介してしておこう。
『図書館警察』
主人公はサムという不動産業の男性。ロータリークラブの講演予定者が怪我をしたことで、急遽講演を依頼される。それで参考図書を借りるために図書館へ行った。本当な行きたくない。なぜなら彼は子供時代に図書館で恐ろしい経験をしていたから。
勇気を出して図書館に行ったけれど、アーデリアという高齢の女性司書しかいない。不思議に思いつつも、アーデリアに相談して適切な本を2冊選んでもらった。ただし「この本を返さなかったら、図書館警察があなたを逮捕します」と念を押された。これだけでちょっと怖い。
ネタを明かすと、アーデリアは人間じゃなかった。そしてこの図書館は何十年も前にアーデリアが司書をしていたときの図書館だった。つまり異世界の図書館だということ。サムは講演を成功させるけれど、なんとその2冊の本を失くしてしまう。
でもそれはこの世に復活しようとするアーデリアの罠だった。アーデリアは恐ろしい異世界の化け物で、人間の恐怖を食料にして生きている。サムにとって最大の恐怖は『図書館警察』だった。それは彼が少年時代に受けた小児性愛者によるレイプ事件に関連している。
ということでアーデリアに勝つためには恐怖を克服するしかない。このあたりは著者の有名な作品である『IT』と同じテーマ。この壮絶な戦いは一読の価値があるので、是非とも本編を。
『サン・ドッグ』
ケヴィンという少年が誕生日のプレゼントに父からポラロイドカメラをもらった。喜んだケヴィンが家族の写真を撮ると、写ったのは知らないどこかの庭。何枚撮影してもその写真しか撮れない。やがて少しずつ、その写真が変化してきた。恐ろしい黒い犬が、一歩ずつこちらに近づいてくる。
写真を撮影するたびに犬が牙を剥いて前に迫る。それは写真の世界である2次元に住む怪物で、写真を撮り続けることで現実世界に飛び込んでくる。そしてカメラの持ち主であるケヴィンを殺そうとしていた。
カメラを破壊しようと思ったケヴィンだけれど、ポップという高利貸しの老人に騙されてカメラを奪われてしまう。ポップはそのカメラをオカルトオタクに高値で売るつもりだった。だけど黒い犬に取り憑かれたポップは、写真を撮り続ける。そしてポップは殺され、姿を見せた黒い犬はケヴィンに襲いかかるという物語。
この戦いも壮絶だった。立体感のない2次元の存在が、3次元世界に降臨してくる様子はかなり恐ろしい。最終的にケヴィンが勝利するけれど、異世界と現実世界のつながりが自然すぎて、戦いのシーンを読みながら思わず自分の背後をふり返ってしまったwww
さすがスティーブン・キングという素晴らしい2作品だった。この人の頭の中は、マジでどうなっているんだろうと思う。よくこんなことを思いつくよなぁ。
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