記憶を絶対視するのはダメ
今月の24日からApple TVで『ファウンデーション』というドラマがスタートした。ボクは原作を読んだことはないけれど、名前を知らない人はいないアメリカSF作家のアイザック・アシモフの代表作を映像化した作品。
とりあえず第1話を観たけれど、思っていたよりはるかにすごい。原作を読んでいないのでちがいはわからないけれど、CGが素晴らしくてまるで『スター・ウォーズ』を観ているようだった。Appleがかなり本気でこのドラマを制作しているのがわかる。
最終的にどんな感想になるかわからないけれど、毎週配信されるドラマを追いかけてみようと思う。そして面白かったら原作を読もうと思う。さすがのアシモフだよなぁ。
ところがちょっと残念なSF映画を観た。発想は好みなんだけれど、肝心な部分で共感できなかった。
2021年 映画#141
『ANON アノン』という2018年のアメリカ・ドイツ・イギリスの合作SF映画。クライブ・オーウェンとアマンダ・サイフリッドが共演しているので、めちゃ期待して観た。この二人の演技には満足。
クライブ・オーウェンはいつもの落ち着いた雰囲気だったし、アマンダ・サイフリッドの悪役は逆にいつもとちがって見応えがあった。だけどある設定が気になって、最後まで共感できなかった。
この世界には大きな犯罪がない。なぜなら人間の記憶がデジタルデータとして記録・検閲されているから。クライブ・オーウェン演じるサルは刑事。彼は人間の記憶データにアクセスする権利を持っていて、肉眼を通じてデータにアクセスできる。
だから容疑者が嘘をついていてもすぐにわかるし、赤ちゃんの目撃であってもその記憶から犯罪の事実を知ることができる。だから犯罪捜査やトラブルは、記憶のチェックで事足りた。それゆえ悲惨な犯罪も起きない。トム・クルーズが主演した『マイノリティ・リポート』のような世界。
ところがある日、サルはデータが読み込めない女性を街で目にする。それがアノンと名乗る匿名の女性。アノンは自分だけでなく、他人の記憶を消すことができる。さらに他人の視覚をハッキングすることで、その人物の視覚を奪ってしまうこともできた。
同じ状況の殺人事件が立て続けに起きる。被害者の記憶をチェックしてみると、共通して視覚をハッキングをされていた。死者の記憶に残っていたのはその人物を殺そうとしている犯人の視覚。だから殺された人間しかデータに残っていない。最悪なのは、殺された人間は自分が撃たれる瞬間を見て死ぬことになる。
サルは記憶データが読み込めない女性の犯行を疑い、アノンをおびき出す。そのことによってサルが事件に引き込まれてしまうという物語。結末としてはちょっとしたどんでん返しがあった。ただ最初に書いたように、この世界の前提がどうしても容認できない。それは人間の記憶を絶対視していること。
人間の記憶というのは『主観』に大きく影響されている。何らかのバイアスがかかっていてるのが普通。そのうえ、人間は意識的、あるいは無意識に記憶を改竄してしまう。ひどい場合は捏造することもある。つまり人間の脳に保存されている記憶なんて、事実であるかどうかの証明にならない。
だけどこの映画はその記憶を絶対視している。この部分がボクはひっかかってしまって、どうしても物語の展開に共感できなかった。SFというのは突飛な発想によって成り立っている。それはわかるけれど、納得できる範囲を超越してしまうと興醒めしてしまう。ちょっと残念な映画だったなぁ。
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