戻る場所のない心の叫び声
ボクが若いころにスピリチュアルな出来事に傾倒したのは、この世界に馴染めない感覚が抜けなかったから。子供のころから異邦人という気持ちに支配されていて、自分の本当の居場所はここじゃない。きっと帰るべき場所があるはず。そう感じて生きていた。
もしかしたらそれはいまでもボクの心に存在しているかも。どこか開き直ったところがあって、いまの自分を全力で生きることを受容している。とはいえ、この人生が終わったなら帰る場所があるような気がしてならない。
そんなボクと同い想いを持っている人なら、この物語に共感するだろうし、主人公たちの心の叫び声が聞こえるはず。ただ、限りなく切なく、苦しく、そして恐ろしい物語だった。
2021年 読書#102
『十二国記 魔性の子』小野不由美 著という小説。この作品は『十二国記』シリーズで最初に出版された。だけどいきなり読むとこの世界が理解できない、とファンサイトに書いてあった。その言葉は真実で、ファンサイトおすすめの順序で読んだからこそ、この物語を最初から最後まで楽しめたと思う。
『十二国記』という作品は、ほとんどが日本とはちがう異世界が舞台となっている。のちに慶国の王となった中嶋陽子が初めて登場する『月の影 影の海』という作品で、彼女の高校生活が冒頭に登場しただけ。すぐに陽子は異世界へと移行している。
だけどこの『魔性の子』は最初から最後まで物語の舞台は現代の日本。主人公は広瀬という大学生で、教員免許取得のため卒業した私立高校で教育実習をするという場面から物語が始まる。
担当したクラスに高里という不思議な印象を抱く生徒がいた。広瀬は自分と似たものを彼に感じ、どうにかして近づこうとする。だけど高里は積極的に関わってこない。いつも他人と距離を置いて、一人静かに過ごしている。といっていじめられている印象はなく、クラスメイトたちが近寄ってこないという状況だった。
やがてその理由が明らかになる。高里は幼いころに神隠しにあっていた。自宅で折檻を受けているとき行方不明となった。そして1年経って戻ってきたときには、以前の彼とちがう少年になっていた。以前はいじめられていたが、戻ってからいじめられることはなくなった。
なぜなら彼をいじめたり脅したりする人間は、事故に遭ったり死んだりするようになったから。それが噂になり、高里は祟るということを同級生たちは信じるようになった。それは中高生になっても続き、生徒だけでなく教師まで死んでいる。
この物語でも前半から中盤で少なくとも10人ほどの死者が出る。これはすでにホラー作品。そして高里の周辺に白い手をした女がいるという目撃談もあった。実際に広瀬もその白い手を見ている。
最終的には200人以上の人間が犠牲になる。広瀬が教育実習をしていた高校は倒壊する。津波も起きる。だけどこれは悪霊の仕業でも、祟りでもない。
『風の海 迷宮の岸』という物語を読んだ人なら、高里の神隠しのシーンに気づくはず。それは戴国の麒麟である泰麒のエピソードであることを。泰麒は十二国で生まれるはずだったけれど、日本で生まれてしまった。それで迎えがきたのが神隠しの真相。
ところが麒麟として戴国で働き出して1年後、なんからの事故があって日本に戻ってしまった。角を折ったことで記憶が飛んでいる。それが高里という少年の実態だった。麒麟には彼を守るために妖魔がついている。
だから高里の意思に関係なく、彼に危害を加えようとする人間は妖魔によって命を奪われていた。これが事件の真相だった。広瀬は過去に臨死体験をしていて、その世界が自分の戻るべき場所だと感じていた。だから高里の気持ちに共感できた。高里もそんな広瀬を慕うようになる。
ラストシーンは本当に悲しかった。元の世界に戻る高里を見送る広瀬が切なすぎる。高里つまり麒麟には戻るべき場所がある。だけど広瀬にはない。他人との関係に違和感を抱きつつも、この世界で生きていくしかない。その悲しみと苦しさが、ボクの心を激しく揺さぶった。涙が止まらなかった。
『十二国記』で最初の物語が最恐だった。そしてもっとも悲しかった。だけど素晴らしい物語だった。最初に読んでいたら、この物語を理解できなかっただろう。かなりオススメの作品だけれど、読む順序はファンサイトの推薦に従ったほうが絶対にいい。それにしてもなんてスケールの大きい物語なんだろう。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。