誰にもいえない夫婦の秘密
どんな人にも他人にいえない秘密があるはず。私生活をネタにしている漫画家の人であっても、絶対に描けないことの一つや二つは必ずあるだろう。
そのほとんどは、その人の周囲に影響がある程度の秘密だと思う。犯罪がらみでなければ、著名人でもない限り他人の秘密なんて興味がない。たいていは知られたら恥ずかしいという程度のことだろうと思う。
ところがさすがにこれはマズい、とかなりドキマギした秘密を描いた映画を観た。フィクションなのはわかっている。なのに主人公たちに共感して冷や汗が流れた。それは40年ものあいだ、ある夫婦が抱えていた秘密だった。
2021年 映画#154
『天才作家の妻 40年目の真実』(原題:The Wife)という2017年のスウェーデン、イギリス、アメリカの合作映画。予備知識なしで観たけれど、途中から時間を忘れてのめり込んでしまった。本当であればシャレにならない物語だろう。
主人公はジョゼフとジョーンのキャッスルマン夫妻。夫のジョゼフは有名作家。ある日、自宅に電話が入る。それはノーベル文学賞の受賞の知らせだった。二人はベッドで飛び上がるほどの喜びよう。
二人には娘と息子がいる。息子は作家志望で、作品を書いては作家の父に見せていた。ところがジョゼフは一向にいい返事をくれない。だけど母のジョーンは息子の小説が素晴らしいと称賛してくれた。
そしていよいよストックホルムに到着する。ところがジョゼフをつけ回しているライターがいた。彼の伝記を書きたいと依頼しているナサニエルという男。だけどジョゼフはその依頼をずっと断ってきていた。
実をいうとこの夫婦には秘密がある。二人の出会いはジョゼフが大学の講師で、ジョーンは学生だった。ジョゼフは小説講座を開いていて、ジョーンの才能を高く買っていた。だけど時代は女流作家にとって暗黒でしかなく、才能があってもデビューする可能性はほぼゼロだった。ここが重要なポイント。
ノーベル賞の授賞式の前日、夫ともめたジョーンは一人でストックホルムの街を散策した。そのときナサニエルに呼び止められる。そしてある疑惑について問いただされる。ジョゼフの作品は、二人の結婚前と後でまったくちがう。だけどジョーンが大学に残してたった1冊の小説は素晴らしい。
つまりナサニエルは、ジョゼフの作品を書いたのは彼ではなく、妻のジョーンではないかと疑っていた。いや、すでに確信している。もちろんジョーンはシラを切る。だけどそれは事実だった。
息子の書いた小説にいい返事ができないのは、父にその技量を見抜くだけの才能がないから。母が息子を称賛するのは、その価値を感じ取れるから。このあたりの伏線がうまく効いている。
ジョーンは女性なのでデビューできない。そこで夫の原稿に手を入れることで満足を得ようとしていた。なのに夫はその成果を自分のものとして好き放題にしている。その不満がノーベル賞の授賞式で爆発する。そして夫婦は離婚の危機を迎える。
ところが心臓の持病のあったジョゼフは、興奮したせいかそのまま発作を起こして命を落としてしまう。結論として、ジョーンは自分がゴーストライターだったことを世間に伏せたまま、夫の名誉を守るという内容だった。
作家をテーマにしているけれど、女性の社会進出に対する差別をテーマにした作品。それが夫婦であることによって、かなり複雑で興味深い物語となっている。殺人が起きるミステリよりも衝撃が大きかった。二人の子供には真実を話すようだけれど、きっとジョーンはその秘密を墓まで持っていくんだろう。
ジョーンを演じたグレン・ローズの演技は見もの。主人公の複雑な心境を完璧に演じきっていたと思う。とても見応えのある作品だった、
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