80年代を愛するオタクに共感
1980年代は、ボクにとってブラックボックスのような10年だった。年齢でいえば18歳から28歳という時期。一般的には人生で輝く時期のはず。大人として自立するころでもあって、その時代のカルチャーにどっぷりと浸かっている人が多いはず。
だけどボクは18歳で家出をして一人暮らしを始めた。それから学生時代を石川県で過ごし、京都に戻ってきてから社会人になって毎日が必死。父親の会社で社会人生活を始め、その後は税理士事務所に転職している。30歳を過ぎてから祇園の芸舞妓事務所に勤めているので、80年代は自分の未来が見えずに暗中模索していた時代だった。
だからこの時期は大好きな洋楽から離れ、自宅と職場の往復で日々が過ぎていった。そのせいか、その時代のカルチャーに触れたという記憶がない。ところがある小説を読んで、無意識ながらもその時代の息吹を感じていたことに気づいた。
2021年 読書#108
『ゲームウォーズ』下巻 アーネスト・クライン著という小説。スティーブン・スピルバーグが監督した『レディ・プレイヤー1』という映画の原作。上巻の感想については、『映画と原作の差異は宝物』という記事に書いているので参照を。
映画と原作は基本構成が同じだけで、ストーリー展開はかなりちがう。まったく別の物語だといってもいいほど。ところが映画の脚本を書いているのが、原作の著者でもあるアーネスト・クライン。だから表現媒体の差であって、原作も映画も物語の世界観が完璧に反映されている。
おさらい代わりに書いておくと、これは宝探しの物語。オアシスという仮想空間に開発者のハリデーがエッグを隠した。それを見つけたものは、彼の遺産であるオアシスの権利と50兆円以上の遺産を受け継ぐことになる。
主人公はウェイドという少年で、オアシスでのハンドルネームはパーシヴァル。親友のエイチ、パーシヴァルが恋しているアルテミス、そして日本人であるショウトウという人物が仲間。
一方莫大な資金力でオアシスを横取りしようとしているのが、IOI社の CEOであるソレント。この両者の戦いという図式になる。映画とのちがいをここで書くよりも、どちらもオススメなので楽しんでもらうほうがいい。映画も原作も、結末としてはパーシヴァルがエッグを手にすることになる。
映画もそうだけれど、原作はかなりオタク度の高い物語になっている。遺産を残したハリデーが80年代のポップカルチャーに傾倒していた。それゆえ3つの鍵を得るための仕掛けやゲームには、そのカルチャーの理解が必要。その時代のゲームや音楽、テレビ番組に精通していないと勝てない。
さっぱり分からない項目もあった。だけどアメリカの80年代のポップカルチャーには、日本の70年代のヒーローが流行していたらしい。だからボクにすればかなりの得意分野www
マジンガーZ、マグマ大使なんかが普通に登場してくる。ソレントとパーシヴァルの決戦なんか、ソレントが扮したメカゴジラと、パーシヴァルが扮した初代ウルトラマンの対決だったからね。おそらく日本人がこの原作を読む場合、70年代のカルチャーに接していた人のほうが楽しいかも。
だから80年代を愛するアメリカ人のオタクたちに、ボクは最初から最後まで共感することができた。そして物語のお楽しみは、やはり仲間たちが仮想世界ではなく、リアル世界で会う場面。
パーシヴァルの親友であるエイチは、屈強な男のキャラだった。だけど本当のエイチは黒人の若い女性でゲイだという設定。だけど二人の友情はまったく揺るぐことがない。なぜなら互いの本質を見てきたからだろう。
それはヒロインであるアルテミスの場合も同じ。アルテミスのリアルは、顔に大きなアザのある女性だった。だけどパーシヴァルが彼女を愛する気持ちは、ちっとも変わることがない。仮想世界と現実世界がうまくリンクしているから、映画も原作も楽しめる作品なんだと思う。
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