二重タイムトラベルのトリック
映画でも小説でも、タイムトラベル作品は人気がある。でも同時に、ツッコミやすいジャンルなのも確か。例えば映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも矛盾するところはいくつもある。それゆえパラレルワールドを逃げ道にしてしまう。だけどそれも使い古された手法になってしまった。
だけどいままでと少しちがうタイムトラベルの小説を読んだ。小説としてはあまり好みじゃない。でもタイムトラベルの描き方が面白かった。
2021年 読書#111
『タイムマシンを教えるために』赤井五郎 著という小説。物語はタイムマシンが完成したという未来から始まる。ただし問題がある。過去に向かうことはできるけれど、正確な時空設定ができない。さらに同じ時空へタイムマシーンで移動しようとすれば、歪みによって到着位置が不確定になる。
なのでタイムマシンは国際協定によって厳しく管理されていた。そんな管理官の一人であるオルテシアは、ある日タイムマシンの1台が消えていることに気づく。もちろん施設は大騒ぎ。調査した結果、トウドウという名の人物がタイムマシンを奪ったことがわかった。
そして場面が変わり、藤堂という青年がタイムマシンで過去に降り立つ。彼の目的はその日の深夜に死ぬことになっていた加賀という女性教授の命を救うこと。なぜなら彼女が生きていたら、ある難病の治療法がもっと早く開発され、藤堂の親の命を助けることができるから。
藤堂は、加賀教授がその日に宿泊している別荘へ潜り込むことに成功する。その別荘はある女性作家の持ち物で、向井という中年の女性がお手伝いさんとして別荘の食事等を任されていた。その向井の車に見つかるよう、藤堂は道路で倒れたフリをした。
こんな感じで始まるので、読んでいる人はトウドウが藤堂だと思ってしまう。実はこれはトリック。
未来でタイムマシンを奪ったトウドウは、藤堂の親戚の若い女性だった。加賀教授を救うプロジェクトで過去に旅立った藤堂。だけど彼は戻ってこない。そのうちタイムトラベルの危険が指摘され、藤堂を送り出した研究チームはタイムマシンを取り上げられてしまう。
だけど藤堂のことを諦められない。そこで藤堂を慕っている親戚の娘がタイムマシンの職員として施設に潜入して、タイムマシンを奪うことに成功した。その娘の名前が向井だった。
ところが藤堂と同じ時空に移動することはできない。向井が到着したのは、加賀教授が亡くなる25年も前だった。でも加賀教授と藤堂を助けたい向井は、加賀教授が亡くなることになる別荘の持ち主に接触する。そして25年もかけて、お手伝いとしてその日が来るのを待っていた。
このあたりにツッコミどころはたくさんある。だけどこの向井という女性の想いに感動してしまった。25年も待ち続けるなんてすごい。もちろん加賀教授は助かるし、藤堂も彼女が乗ってきたタイムマシンで送り返すことができた。だけど中年となった向井はその時代で生きていくしかない。
何とも切ない話だけれど、向井はその時代の生活が気に入っているような気がする。作家の先生ともいい関係だしね。そして加賀教授が殺される謎解きに、双一郎と京子という高校生の自称探偵が活躍する。ボクは知らないけれど、この著者の作品におけるレギュラーキャラらしい。
タイムトラベルの新しい視点を感じられて、それなりに楽しめる小説だった。
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