「MeToo運動」の先がけ
「#MeToo運動」という言葉が、一時期ネットで頻繁に流れていた。セクハラ、特に男性から女性への性的暴力について声を上げようという運動。泣き寝入りしているのではなく、協力して暴力を告発しようというもの。先日もニューヨーク知事がセクハラ問題で辞職している。
ハリウッドでもプロデューサーたちによるセクハラが問題となって、女優たちが声を上げたことがある。「#MeToo運動」の1年ほど前に、大規模なセクハラ訴訟が起きた。もしかしたらその出来事が、この運動の先がけとなったのかもしれない。
その訴訟が映画化されている。とても見応えのある素晴らしい作品だった。
2021年 映画#162
『スキャンダル』(原題:Bombshell)という2019年のアメリカ映画。写真のシャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、そしてマーゴット・ロビーが共演している。2016年に起きたテレビ会社のFOXを相手取って起きたセクハラ訴訟の映画化。つい最近のことなので、かなり生々しい。
写真を見るとわかるように、シャーリーズ・セロンとニコール・キッドマンは特殊メイクをしている。それは実在の人物に似せるため。マーゴット・ロビーは映画だけのキャラとのこと。要するにほぼ実話だけれど、内容が内容だけにリアルに描けない。それゆえフィクションを混じえてあるらしい。
FOXといえば共和党の御用達メディア。セクハラ訴訟が起きたのは、トランプ前大統領が共和党の候補として登場するころ。最初に口火を切ったのが、ニコール・キッドマン演じるグレッチェン・カールソン。セクハラを拒否したことでクビになった。そこで勇気を出して訴訟を起こした。
当時FOXで人気キャスターだったメーガン・ケリー。彼女も実はセクハラを受けた結果、キャスターとしての地位を得ていた。立場上沈黙を守ろうとしたが、まだセクハラが続いていることにショックを受ける。そしてついに彼女も訴訟を起こした。そのメーガン・ケリーをシャーリーズ・セロンが演じている。
若手でセクハラの標的となったのがマーゴット・ロビー演じるケイラ。架空の女性だけれど、きっとモデルが存在するのだろう。この3人以外にも過去に退職や転職した女性たちから証言が得られた。最終的にFOXは20億円を払って和解に持ち込んでいる。
訴えられたのはFOX のCEOだったロジャー・エイルズ。創業者はマードック一家だけれど、ロジャーは会社の立ち上げから関わってきた人物。彼がこの会社をここまで大きくしたのは事実。ただ女癖の悪いのだけはどうしようもなかったらしい。
セクハラ被害に関して、すべての女性社員が声を上げたわけじゃない。仕事を失うことを恐れ、会社側につく女性もいた。こうした対比がうまく描かれていて、その後の訴訟の展開で社内の空気が変わっていく様子が興味深い。
シャーリーズ・セロンとニコール・キッドマンはさすがという演技だった。この映画を完璧に引っ張っている。そしてそれに負けないのがマーゴット・ロビーの存在感。最近の彼女は、ハーレイ・クインの役でファンキーな弾けた印象が強い。だけどこの作品では、オドオドした女性の役が見事だった。やっぱりいい女優さんだよね。
それにしてもこの映画の完成年度に驚く。訴えられたロジャーが亡くなってすぐに映画化構想がスタートしたらしい。さすがリベラル寄りのハリウッド。共和党寄りのFOXを追い詰める映画を作ることに、嬉々としている様子が伝わってきたよなぁ。
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