あなたの18歳を探してみよう
いまや選挙は18歳から投票できる。そういう意味では、18歳は成人だと考えていいと思う。そして現代人にとって18歳というのは、人生の大きな分かれ道になることが多い。高校進学が一般的になることで、卒業する18歳にはその後の進路を通じたドラマが起きやすい。
ボクも18歳のときに両親と大喧嘩をして家を飛び出した。アパートを借りてアルバイトで暮らしながら、受験勉強をしていた。六畳一間の部屋で、トイレは共同で風呂はない。高校卒業時は太り気味だったのに、その年の暮れには履いていたジーンズの片足に両足が入るほど激ヤセしたwww
いまから思い返せば、面白い時期だったと思う。そんな18歳に焦点を当てた小説を読んだ。いくつかの世代にわたって書かれたものなので、きっとあなたの18歳がどこかに見つかるはず。
2021年 読書#113
『犬がいた季節』伊吹有喜 著という小説。本屋大賞にノミネートされたことで出会った物語。タイトルにあるように、犬が中心にいる物語。
冒頭は子犬が捨てられるシーンで始まる。ちょっと切ない。その犬はシローと呼ばれていた。捨てられて迷い込んだのは八稜高校という学校。通称ハチコウと呼ばれている学校なので、シャレが効いている。
紆余曲折あった結果、その犬は学校で飼われることになった。その中心となったのは美術部。塩見優花という女子生徒がメインキャスト。犬をどうするか悩んでいたとき、誰かがある人物の名前を口にした。早瀬光司郎という美大志望の男子生徒。
シローという名前だったので、犬はその言葉に反応して尻尾を振った。それゆえコーシローという名前になった。そしてその犬を世話する仲間は『コーシロー会』と呼ばれた。その生徒たちの物語を綴ったもの。全部で5つの時代の卒業生がコーシローに関わる。
昭和63年度卒業生
平成3年度卒業生
平成6年度卒業生
平成9年度卒業生
平成11年度卒業生
最初にコーシロー会を作ったのは、もちろん昭和63年度の卒業生たち。だからコーシローも早瀬と塩見が大好き。そしてその二人の長い時を経た恋愛物語でもある。
新しい小説なのでネタバレはやめておく。とにかく50代の人が読んでも、そして30代の人が読んでも、どこかの章に18歳の自分を見つけられると思う。それほど時代描写が詳細で、その時空のアイテムや風俗習慣がわかりやすく登場する。時代の空気感に触れることで、当時の自分を思い出すはず。
そしてそれぞれの物語が本当に感動的。登場人物たちは18歳という人生の節目において悩み苦しみ、そして勇気を出して次の一歩を進む。あるいは何かを諦めることもある。そんな葛藤が5つの物語に仕込まれている。
やがてそれが最終章に引き継がれる。令和元年の夏に、この高校の創立100周年の式典が行われた。もちろんコーシローはいない。だけどコーシロー会の同窓会も実施され、5つの物語の登場人物たちのその後がわかる。
もちろんメインは、50歳近くになった早瀬光司郎と塩見優花の再会。それがどのようなものになるかは、最後まで読んだ人の特典だと思うような素敵なエンディングだった。
とにかく可愛いのがコーシロー。各章の前後には、コーシロー目線の文章が書かれている。高校の生徒は3年で消えてしまう。そんな出入りの多いなかで、コーシローがもっとも愛したのは早瀬光司郎と塩見優花の二人だった。そして誰よりも二人の幸せを願っていたのがコーシローだろう。
そんなことを思うだけで、瞳がウルウルしてくる素敵な物語だった。
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