敗戦から見える戦争の狂気
日本では戦争を体験していない世代が増えてきた。真珠湾攻撃から80年ということは、60代以下の人にとって戦争は歴史上のものでしかない。物心ついたころには、戦争の傷跡が日本から消えようとしていたから。
だからこそ、戦争の恐ろしさを伝えていこうという気持ちは理解できるし、大切なことだと思う。なぜならいまでも世界では戦争、あるいは軍事力による弾圧が多くの人の命を奪っているから。実際にいま、ロシア軍がウクライナ国境に集結している。報道によると兵士は10万人を超えるらしい。
アメリカ政府からロシア政府に圧力がかけられているけれど、しばらくは予断を許せない状況。大義名分はどうであれ、本当に武力侵攻を実施したら世界中を巻き込んでしまう。戦争は勝っても負けても想像を絶する犠牲を伴う。こんな今だからこそ、歴史から学ぶべきだと思う。
特に敗戦国の経験は貴重。負けが確定した国家がどのようになっていくか。そのことを知るだけで、いままでと違った視点から戦争の狂気を知ることができる。ある本を読んで、ボクは戦争の恐怖と狂気を目の当たりにしたような気持ちになった。
2021年 読書#123
『ヒトラー 最後の12日間』ヨアヒム・フェスト著という本。先日、この本のタイトルと同じ映画を観た。その作品の感想は『恐怖を誘う戦争の幕引き』という記事に書いているので参照を。
その映画は2冊の本が原作となっている。このブログで紹介している作品と、当時ヒトラーの秘書だった女性の体験記。映画の内容に深い興味を覚えたので、その原作を2冊とも読もうと思った。まずは歴史家が書いたこの作品からトライした。
最初に思ったのは、先に映画を観ておいてよかったということ。この書籍で取り上げられる人物は多い。名前を覚えるだけでも大変なので、映画を先に観ておくとその場面に当てはめて理解できる。おかげでスムーズに読み進むことができた。
この本を読んで、映画がこの本に忠実に制作されていたことがよくわかった。生き残った人たちの体験談を集めたものだから、事実と確認できる内容が記されているんだと思う。それだけに1945年の4月に地下要塞で起きたことがリアルに伝わってきた。
とにかくこの時期のヒトラーは正気ではなかった。まるで認知症のように、あり得ない部隊に命令を出そうとしている。かと思うと、怒り狂って裏切り者の名前を連呼して銃殺している。
そうかと思えば異様なほどの優しさも見せている。特に女性秘書たちに対しては、紳士のような態度をとっていた。敗戦が確定してくなかで、混乱しているヒトラーの心のうちがそのまま行動となっていたんだと思う。そして周囲の幹部たちの動揺も、この本を読んで映画以上に理解することができた。
妻と6人の子供を巻き込んだゲッベルスの自殺も悲惨だけれど、包囲されて行き場のない兵士たちが見捨てられていく状況も辛い。できることなら戦争を知らない世代の人たちにはこの本を読んで欲しいと思う。
ボクが興味を持ったのは、ヒトラーに逃亡を進めた場面。映画には出てこなかったけれど、同盟国である日本への逃亡も視野に入れられていた。ヒトラーはその提案を拒否したけれど、ドイツと日本との関係がよくわかる。
さらにドイツは1941年の段階で、すでにこの戦争には勝てないという見通しだったらしい。日本がアメリカと戦争を始めた年に、同盟国のドイツは追い詰められていという事実を知った。そう思うと、日本の開戦がとても悲しく感じてしまう。
さて、次は女性秘書の体験談を読むつもり。地下要塞で彼女が見た世界を、その本を通じて感じたいと思っている。
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