入れ子構造の外側がぶち壊し
小説というものは、著者の仕掛けと読者の参加によって物語が化ける。本は『読む』という能動的な行為が読者に求められるので、著者は結論をボカすことや、それとなく匂わすことで、読者の想像力に任せるという方法を取ることがある。それゆえ読後の感想が、人によってちがったりする。
だけど映画は少し事情がちがう。どちらかといえば観ている人は受動的。登場人物に共感することで能動的な心理状態になることはある。だけどその前提として受動的な要素が満たされる必要がある。だからその段階で失敗すると、残念な作品になってしまうことが多々ある。
まさにそんな残念な作品を観てしまった。最後の最後まで最高の作品だと確信していた。なのに、なのに……。
2021年 映画#188
『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(原題:The Words)という2012年のアメリカ映画。ブラッドリー・クーパー、デニス・クエイド、ジェレミー・アイアンズというキャストだけでワクワクする作品。その期待どおり、映画の始まりからラスト近くまで素晴らしかった。
この作品はマトリョーシカのような、入れ子構造の物語になっている。冒頭はデニス・クエイド演じる作家のクレイが、この映画のタイトルである『ザ・ワーズ』という新作小説の朗読を観客の前で行うシーンで始まる。
その『ザ・ワーズ』という物語の主人公がブラッドリー・クーパー演じるロリーという作家。ロリーは才能があるけれど、時代にマッチする作品が書けない。それで作家になる夢を抱きつつも、現実に直面して苦悩していた。
ある日、妻と新婚旅行で行ったパリのアンティークショップで、気になるバッグを見つける。そしてニューヨークに戻ってきてから、そのバッグのなかに古い小説の原稿があるのを見つける。その小説に感動して心を打たれる。
想像がつくように、ロリーは盗作という踏み込んでいはいけない領域に進んでしまう。その小説は『窓辺の涙』というタイトルで、あっという間にベストセラー作品となる。ロリーの盗作はそれ一度きりで、それ以降は名声に後押しされて自分の作品を出版している。
ある日、見知らぬ老人がロリーに接触してくる。それは『窓辺の涙』の本当の著者。老人にはロリーを訴えるつもりはない。だけど他人の人生を盗んだ重荷を背負ってほしい。そのために事実を明かした。そしてその小説を書くに至った経緯を語る。
その老人の経験談が、入れ子構造のさらに奥の物語。この作品は3つの物語が複雑に折り込まれている。この老人の若い時代の物語も、そしてロリーの苦悩とその後の展開も最高だった。老人役を演じたジェレミー・アイアンズが素晴らしい。ブラッドリー・クーパーも最高だった。
ところが最大の問題は入れ子構造の外側であるクレイの物語。ラスト近くになって、ロリーの物語はクレイの実話だと感じさせてある。だけどクレイの行動が不可解すぎて、最後まで理解できない。入れ子構造のもっとも外側にある物語は、内部に折り込まれた物語をまとめ上げる役割を担っているはず。
なのにラストシーンでは、観客を置き去りにしたまま唐突に終わってしまう。えっ、えっ、と思ったとたんににエンドロールが流れる。それまでの感動をどうしてくれんね、と思わず抗議したくなった。誰に抗議したらいいのかわからんけれどwww
途中まで最高傑作だったのになぁ。90分で終えるくらいなら、120分まで伸ばしてきちんと納得させて欲しかった。かなり残念な作品だった。
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