逆説的な敬愛表現に感動した
何かに対するリスペクトを表現するとき、普通はストレートにその想いを込める。それは小説でも映画でも行われている。対象への素晴らしさを抽出して、大勢の人がうなづけるように物語化される。
ところがそんな正攻法とはちがう、ちょっと変わったリスペクト精神にあふれる映画を観た。その逆説的な敬愛表現に素敵な恋愛がプラスされたことで、想像を超えた素晴らしい作品へと昇華していた。
2022年 映画#16
『パリ、嘘つきな恋』という2018年のフランス映画。主人公の軽薄な男が、真の恋に目覚めていくという物語。映画の前半は、この主人公を見ているだけでウンザリしてしまう。途中でやめようかと思ったくらい。だけど中盤から後半にかけて、一気に物語の雰囲気が変わった。そしてラストでは感動して涙ぐんでしまった。いやぁ、最後まで観て良かったwww
主人公のジョスランは、大手シューズ代理店支社長。豪邸に住んで高級車を乗り回している。独身主義の49歳で、恋愛に求めるのは一時的な楽しさだけ。だからチャンスがあればナンパしまくっていた。嘘つきの名人で、映画の冒頭で彼のライアーぶりがうまく表現されている。
ある日、彼の母が亡くなる。それで母の車椅子に座って実家の整理をしているとき、となりに引っ越してきた女性に声をかけられた。美人でセクシーな女性。ケースワーカーをしているということで、その女性はジョスランが障碍を持っていると思った。
ジョスランとしてはそのチャンスを利用するしかない。ということでうまく取り入ることに成功。なんとその女性の実家に招待されたときも、下心いっぱいで車椅子のまま向かった。そして実家で紹介されたのが、その女性の姉であるフロランス。彼女は正真正銘の車椅子を利用する障碍者だった。
一度嘘をつけば、なかなか撤回できない。やがてジョスランは生まれて初めてフロランスを本気で好きになった。彼女は車椅子ながらテニスプレイヤーとしても活躍していて、普段の職業はバイオリニスト。障碍を苦にすることなく、力強く前向きに生きている。
この二人の対比が素晴らしいと思った。健康なのに障碍者のフリをするなんて、これだけならこの映画は炎上モノ。ところが車椅子ながら懸命に生きているフロランスを対照に置くことで、映画監督の障碍者に対するリスペクトを強く感じた。
ちなみにジョスランを演じているフランク・デュボスクが、この映画の主演だけでなく、監督、脚本も兼任している。それだけにこの映画から力強く、そして心地よいメッセージが伝わってきた。
フロランスは嘘が嫌いな女性。過去の恋愛で相手の嘘に苦しめられたから。それだけにいまさらジョスランは本当のことが言えない。コメディ映画としても、この設定でかなり笑わせてもらえた。ところがフロランスは、とっくに彼の嘘を見抜いていた。だから彼との別れを心に決めている。
でも結果はハッピーエンド。この二人がどのように結ばれるかを知りたい人は本編をどうぞ。何が素晴らしいって、フロランスを演じたアレクサンドラ・ラミーという女優さん。決して美人じゃないんだけど、とても魅力的な人だった。この映画は、彼女の演技でさらに素晴らしい作品になっていると思う。
久しぶりのフランス映画だったけれど、もう一度観たいと感じる作品だった、
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