心中した祖父母の秘密
読書のジャンルが偏らないよう、できる限り未知の作者の作品を読むことを意識している。でも図書館で予約する本は、どうしても読みたい本を優先してしまう。だから電子書籍で普段は読まない雰囲気の作品を選んでいる。
そんな作品でも、思いがけない素敵な出会いをすることがある。ミステリーのように事件の真相に迫りつつ、家族の隠された想いが明らかにされていくという小説を読んだ。これがなかなか素敵な物語だった。
2022年 読書#17
『昨日の海は』近藤史恵 著という小説。タイトルと表紙では、絶対に読もうと思わない作品。でも読んでみてよかったと感じる内容だった。なかなか良くできたストーリーで、最後まで真剣に読んでしまった。
主人公は四国の海辺の街で暮らす高校生の光介。両親との3人暮らしだったけれど、いきなり同居人が増える。母の姉の芹と小学生の娘の双葉。光介が住む家は母の実家で、名義上は姉の芹のものでもある。東京に出ていたけれど、実家に戻ることになった。
叔母の芹が戻ってきた本当の理由は、彼女の両親の死の真相を突き止めるため。光介にとっては祖父母の不可解な死。二人は近くの海岸で心中をしている。だけど祖父母のどちらかが相手を殺した上での、無理心中だと芹は思っていた。光介の母もそのことを疑っている。ただ真相は闇のなか。
叔母に影響を受けた光介が、祖父母の死の真相に迫っていくという物語。祖父は有名な写真家だったけれど、それで生計を立てられるほどではなかった。だから自宅で写真店を営んでいた。祖父母の死のきっかけは多額の借金。
祖父が東京で写真の個展を開こうとしていたが、直前になって写真がダメになってしまった。そのキャンセル料金等で借金をすることになったらしい。光介が調べていくと、それらの写真をダメにしたのは祖母だった。そこに心中の理由があったらしい。
読者としては心中の真相が気になる。それでミステリーのように読み進んでしまう。だけど最終的に描かれていたのは、叔母の芹の想いであり、実は光介の母が抱えていた心の闇だった。芹が写真店を復活させようとするが、母は心のどこかで抵抗している。その理由こそが、この物語の核心だったという構成。
詳細は省くけれど、結果として祖母が祖父を殺し、自殺したというのが真相。その理由が、なんとも言えない複雑なものだった。もちろん娘である芹と光介の母が関わってくる。最終的にはハッピーエンドのような形で終わるけれど、なぜか心にほのかな影が残るような物語だった。
ボクがもっとも強く感じたのは文章のうまさ。リズム感が良くて、言葉が心にスッと入ってくる。なのに登場人物たちの心の情景が目に浮かぶ。他の作品も読んでみたいと感じる新しい出会いだった、
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