非道な行為は理由が必要
ここ数日のネットは、ウクライナ危機に関する情報であふれている。ウクライナ人に多くの死傷者が出ているらしく、ロシア兵も亡くなった人が大勢いるとのこと。
戦争開始を決めるのは国家元首だけれど、実際に戦うのはまだ若い兵士たち。ロシア兵も、そしてウクライナ兵も上官の命令に背くことはできない。さらに自分の命を守るためには、相手を攻撃するしかない。
人を殺すのは非道な行為。わかっていても、実際に引き金に触れるとき様々な葛藤があるはず。狂気的なサイコパスでなければ、自分なりに納得できる理由がないと人を殺せないだろう。そんなことを考えると、前線で戦っている兵士たちが気の毒で仕方ない。
性善説というものがあるとしたら、人間が非道な行為をするには理由がいる。なぜなら道に外れた行為を正当化するため。そんな心理をテーマにした映画を観た。
2022年 映画#29
『プリベンジ』(原題:Prevenge)という2016年のイギリス映画。映画のジャンルとしてはホラーコメディ的な作品で、年齢指定はなかったけれどややエグい。映画を観ればわかるけれど、特に男性は思わず股間を守りたくなるシーンがあるwww
主人公はルースという妊婦。彼女の夫のマットは、クライミング中に事故死した。映画では少しずつしか明かされていないけれど、マットの死は殺人だと言ってもいいような事故。
クライミング中に事故が起きたとき、命綱のロープにマットを含めて6人ほどがぶら下がっていた。このままでは全員が死んでしまう。そこでクライミングの指導者がマットのロープを切ることで、彼を犠牲にして残りの人の命を助けたらしい。死んだのはマットひとり。
そのことを知ったルースは怒り狂う。だけど事故として処理されていて、彼らの責任を追求できない。そんなとき、臨月近くになった胎児がルースに話しかけてきた。『パパの復讐のため、彼らを殺せ』と。
全力で抵抗するけれど、言うとおりにしないとルースも殺すと胎児は脅してくる。どうやら女の子らしい。そこでルースが関係者を一人ずつ殺していくという映画。銃を使わないところがイギリス映画らしく、ルースの武器は鋭利なナイフ。
クライミングの指導者以外を殺したルース。残りは実際にロープを切った指導者だけ。でも彼を殺す前に破水して出産することになった。もしかしたら悪魔の子供が生まれるかと思っていたルース。だけど生まれた赤ちゃんは普通の可愛い女の子だった。
なぜ胎児の声が聞こえて、自分は復讐を重ねてきたのだろう。そう思いつつマットの事故現場に行ったとき、そこに指導者の姿があった。笑顔で近づくルース。もう胎児の声は聞こえないので復讐するつもりはない。二人が近づいた瞬間、不意にルースは奇声をあげて指導者に襲いかかる。これがラストシーン。
その後、クライミングの指導者がどうなったのかわからない。おそらく、ルースによって崖から突き落とされているだろう。つまり胎児の声が聞こえて犯行に及んだのは、人を殺すことの罪悪感を正当化するための幻覚だったのだろう。
復讐心に燃えているけれど、人を殺しちゃいけない。だけどお腹の子供が命ずるなら仕方ない。その幻覚を感じることで彼女は夫の復讐を果たしたんだと思う。それほど復讐心は恐ろしい。ウクライナでの紛争が、双方の国民に復讐心を残すようなことにならないでほしい。でも現実として難しいかもしれない。
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