人間が演じる寓話に感動
久しぶりに心が揺さぶられて、涙が止まらない映画を観た。観終わったあと他の人の感想をチェックしてみると、すこぶる評判が悪い。最悪だというコメントが多く、なぜだろうと不思議な気持ちになった。
そこでよく考えてみた。おそらくその映画をつまらないと思った人は、ファンタジー映画を観ているつもりだったんだと思う。昨日も書いたけれど、ファンタジーは突飛な発想が許されていても、『必然』が支配していないと興醒めしてしまう。
たしかにその映画をファンタジーとして観ると、都合のいい設定や、意味のわからない世界の連続。だけどボクはその映画の冒頭を観て、これはファンタジーではなく寓話だと感じた。寓話というのは作者が諭したいことがあり、そのために自由な設定で物語が構成される。
代表的なのはイソップ寓話で、動物たちが話をして物語が展開する。そこに理由はいらない。伝えたいことは『必然』ではないから。つまりその映画は、人間が演じた寓話だと思う。ボクはそう感じたことで、この世界の物語に感動したんだろう。
2022年 映画#32
『ギヴァー 記憶を注ぐ者』(原題:The Giver)2014年のアメリカ映画。主役は若い俳優さんだけれど、ジェフ・ブリッジス、メリル・ストリープ、ケイティ・ホームズというベテランが脇を固めている。さらにミュージシャンのテイラー・スウィフトも出演しているという豪華キャスト。それだけにSF映画やファンタジー映画を期待した人は、がっかりしたんだろう。
戦争等によって地球が荒廃したあと、理想郷であるコミュニティという近未来世界が物語の舞台となっている。徹底した管理社会で、投薬することで感情や感覚を制御されている。娯楽もなく、消灯時間まで決められている。
でも科学は進化していて、成人すると長老委員会がすべての若者の職業を決める。そこには競争も、争いもない。人々は平和で、差別もなかった。その証拠に世界はモノクロだった。色が奪われていることで、人種差別というものが発生しない。この時点で寓話だと感じた。
出産は代理母が職業として決められていて、家族ユニットという単位で生活する家が決められている。見た目は普通の家族っぽいけれど、家族ごっこという雰囲気。主人公のジョナスは職業を告げられたとき、たった一人しか任命されない仕事を指定される。それは記憶を受け継ぐ『レシーヴァー』というもの。
コミュニティは色だけでなく、人類としての過去の記憶が消去されている。そこには愛や希望、悲しみや憎しみ、そして痛みや苦しみもある。そうしたすべての感情を排除するため、記憶が消去されていた。だけど人類の記憶を残すため、一子相伝のような形式で記憶が継承される。
ジョナスは記憶を授けるギヴァーという老人から、テレパシーを使って記憶を伝授される。やがてジョナスは人間が失っていた感情を思い出し、この世界が間違っていることを確信する。そして初めて『愛する』という意味を知った彼は、愛する人を守るために記憶の境界線を突破することで、コミュニティで暮らす人たちの記憶を取り戻すという物語。
ボクが感動したのは、ジョナスが色を取り戻し、失われた記憶を再生していく過程。世界中の人間や動物たちが、愛し合い、助け合っている。同時に戦争等の破壊行為も事実として突きつけられる。そんなシーンが次々と重ねられることで、ボクの涙腺が崩壊してしまった。
モノクロととカラーシーンをうまく組み合わせてあって、映画ならではの視覚効果が素晴らしいと感じた。うまく言語化できないけれど、不思議な感動が残る作品だった。是非とも原作が読みたくなったので、早速図書館でチェックした。映画とはちがう感動を体験できるだろうと期待している。
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