人類滅亡の日、誰と過ごす?
つい先日、凪良ゆうさんが本屋大賞を受賞された『流浪の月』という作品を読んで感動した。絶対に映画化してほしいと思ったら、すでに決まっていて公開日が近いとのこと。
不思議なことに、その後に続いて図書館の予約本で届いたのが凪良ゆうさんの作品だった。これまた本気で号泣する素晴らしい作品だった。
2022年 読書#21
『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう 著という小説。本の見開きをめくると、4つのタイトルが目についた。それで短編集だと思ったけれど、実は一人称の語り手が変わっているだけで、ひとつの物語だった。4つの章に分かれていて、そのうち3つは『◯◯を殺しました』という告白で始まる。
といってもミステリー作品じゃない。1ヶ月先に小惑星が地球に衝突する。それは避けることのできない事実であり、小惑星の規模を考えると人類は滅亡するという状況。そんな極限状態において、最後の1ヶ月を誰と、そしてどのように過ごすか? そんな人間愛を描いた感動の物語だった
新しい小説なので、ネタバレはしない。本当は語り尽くしたいほど感動したけれど、これから読む人のために我慢する。とにかく最後の章では、ボクは声をあげて泣いた。最後の瞬間を一緒に迎えようとする登場人物たち。いま思い出すだけでも、その場面が頭に浮かんでウルウルしてしまう。
物語全体としては恐ろしい世界。誰もが平等に1ヶ月後には死んでしまう。そんな絶望的な世界において、アナーキーになるのは避けられない。登場人物たちは誰かを殺したと告白するけれど、その罪を裁く警察も検事も存在しない。街は暴動と略奪が横行して、インフラは断絶している。飢えた人間がたった一つのパンのために人を殺したり、やけになった男が手当たりしだいに女性をレイプする。
そんななか、最後の瞬間を自分らしく生きようとする登場人物たち。彼らだって死ぬのは怖いし、罪悪感を背負っている。それでもせめて笑顔で最後を過ごそうとする。そのひたむきでピュアな想いに、ボクは涙を止めることができなかった。登場人物だけ紹介してしておこう。
『シャングリラ』:江那友樹、17歳。クラスメイトを殺した。母子家庭で育ち、太めのいじめられっ子。藤森雪絵という超美人の同級生に恋している。
『パーフェクトワールド』:目力信士 40歳。大物ヤクザを殺した。バカラ賭博場の店長で、手のつけられない乱暴者。実は友樹の父親。
『エルドラド』:江那静香 40歳。友樹の母親で、元ヤンキー。DVからお腹の息子を守るために信士から離れたけれど、彼のことを本気で愛している。
『いまわのきわ』:山田路子 29歳。恋人を殺した。Lokoという芸名のスター歌手。人類最後の日に、出身地である大阪でライブを決行しようとする。
そして初版本の特典として、別冊子の物語がついている。
『イスパハン』藤森雪絵 17歳。妹を殺した。友樹の恋する相手。医者の養女で金持ちの美少女。だけど死ぬ前に本当の親に会いたくて、東京へ行こうとする。
この5人が関係する物語。当然ながら人類滅亡の日、この5人は同じ場所にいる。だけど彼らの表情は絶望ではなく、ピュアで穏やかな笑顔だった。その理由を知りたい人は、本編をどうぞ。
これも映画化して欲しいなぁ。かなりディストピア的な内容だけれど、それゆえに素朴な愛がキラキラと輝いて見える。きっと誰かが映画化してくれるだろう。
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