もう一人の自分との死闘
先日のブログで、ボクが幼いころにもう一人の自分がいたということを書いた。おそらく自我が確立していない幼い子供は、揺れ動く感覚で別の人格に親しんでいるんだと思う。イマジナリーフレンドもそうして分離した自我のひとつなんだろう。
そんな幻想のような儚いもう一人の自分を、本当の幽霊にしてしまうのが作家。こんな突拍子もない発想ができるのは、スティーブン・キングしかいないだろう。
2022年 読書#22
『ダーク・ハーフ』下巻 スティーブン・キング著という小説。上巻の感想については、『分身を抹殺する方法』という記事に書いているので参照を。
主人公はサド・ボーモントという純文学の作家。ところが純文学としてはまったく売れず、別のペンネームで書いているホラー小説でベストセラーを連発している。そのペンネームはジョージ・スターク。
でもサドはジョージとしての作品に嫌悪感を覚えていて、世間に同じ人物だと公表することで、ジョーク混じりでジョージの葬式を行った。ところがその直後、その葬式に関わった人物が次々に惨殺される。事件現場に残されたのはサドの指紋。さらに犯人からの電話の声紋はサドと一致した、
ところがサドには完璧なアリバイがある。やがてサドは衝撃的な事実に気づく。犯人はジョージだと。想定外の超常現象が起きたことで、想像でしかなかったジョージが物質化したことを直感した。ここまでが上巻。
下巻ではジョージがサドに攻勢をかけてくる。以前のように自分の名前で作品を書かないと、妻と双子の赤ちゃんを殺してしまうと脅す。そして実際に人質にとってしまう。ということで下巻は、サドによるもう一人の自分との死闘がメインとなる。
だけど単なる想像の具現化だと面白くない。スティーブン・キングがそんなストーリーを書くわけがない。サドは双子だった。ところが母の胎内にいるうち、サドがもう一人の兄弟を吸収してしまった。その残骸がサドの脳に残っていて、特殊な手術を受けたことが上巻の冒頭に語られている。
つまりジョージは、母の胎内でサドに食べられてしまった双子の兄弟の亡霊。さらに演出効果として、キャッスルロックという街を利用している。ここは著者がよく使う架空の街で、あらゆる超常現象が発生する場所。キャッスルロックの墓地にジョークで埋葬されたジョージが、幽霊となって復活するのが当たり前のように思えてしまうからすごいwww
結論として、死闘の末にジョージ・スタークはあの世へと送り返される。警官を含めた大勢の人間が殺されたけれど、サドも家族も無事のハッピーエンド。ただしサドの内面にはジョージが宿ったままかも。そんなニュアンスがチラッと残されている。
ラストの死闘で活躍したのが、キャッスルロックの保安官であるアラン・バングボーン。アランは、この作品の数年後に書かれた『ニードフル・シングス』という作品の主人公。その物語でも、恐ろしい悪魔と戦うことになる。キャッスルロックの街は、ほぼ全滅してしまうからね。
ボクは先に『ニードフル・シングス』を読了しているので、アランだけでなく、彼の部下たちの名前を見てうれしかった。そしてこの作品のあとに、彼たちを待ち受ける過酷な運命に同情してしまった。こうした仕掛けがあることで、スティーブン・キングはファンの心をつかまえていくんだろうなぁ。
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