カタルシス不在はキツい
ちょっと珍しい映画を観た。スペインで作られたというSF作品。以前、ロシアで作られたSF映画をいくつか観た。微妙な作品もあったけれど、相対的に見応えのある内容だった。ということでロボットを扱ったスペインのSF映画にトライした。
2022年 映画#47
『EVA〈エヴァ〉』(原題:Eva)という2011年のスペイン映画。映画の舞台は2041年で、近未来と言っていい設定。ロボットが普段使いされている世界で、CGもよくできていたと思う。現代とあまり変わらない暮らしに、ロボットが違和感なく溶け込んでいる印象だった。
主人公は天才ロボット学者のアレックス。10年前に子供型ロボットの研究を続けていたが、突然放り出して街を出てしまった。ラナという恋人もいたのに、なぜ彼が消えたのかについては映画ではわからない。
そんなアレックスが10年ぶりに戻ってきた。中断していた子供用ロボットの完成を要請されたから。ただ恋人だったラナはアレックスの兄と結婚していた。そのあたりが複雑そうで、ちょっとしたモヤモヤ感が演出されている。
アレックスはロボットのモデルとなる少年を探す。でもどの子も平凡で、好奇心を刺激されない。だけどある日、とても興味深い少女と出会った。行動は独創的で魅力にあふれている。アレックスは少年ロボットを少女ロボットに変更することにした。その少女の名前はエヴァ。
なんとそのエヴァは元恋人であるラナと兄との娘だった。つまりアレックスの姪になる。エヴァは最初からアレックスになつき、彼の自宅を訪れては研究に協力するようになった。ところがエヴァの母親であるラナがやってきて、娘を研究対象にしないように警告してきた。
この段階でラナはまだアレックスのことを愛しているのがわかる。もちろんアレックスも同じ。つまり兄との三角関係になりそうで、実際にアレックスはラナに近づいたことで兄に殴られる。
このままでは兄夫婦に迷惑をかけると思い、アレックスは再び街を出ることにした。するとそのことを知ったラナは真実を告げにきた。エヴァのことで、娘はラナとアレックスにそっくりだと話す。最初は10年前の恋人時代にできた子供かと思った。でもちがった。
ラナはアレックスの共同研究者で、中断していた子供ロボットを完成させた。それがエヴァだった。ところが安全基準を満たしていない。本来は解体するべきだけれど、ラナが責任を持って預かることにした。
ところが自分がロボットだと知ったエヴァは混乱する。そして隠していたラナを責めてしまい、その結果勢いでラナを崖下に突き落としてしまう。病院に搬送されたけれど、ラナは亡くなってしまった。この段階で結末は予想がつく。
エヴァはSF作家のアシモフが言うところの、ロボット工学三原則から外れてしまった。その第一条にある、人間に危害を加えていはいけないという項目に違反している。ということでアレックスが責任を持ってエヴァを解体することになった。
助けてほしい、とアレックスにすがるエヴァ。だけどそうはいかない。アレックスはロボットを初期化するキーワードを言葉にする。
「目を閉じたら何が見える?」
エヴァはその言葉によって初期化された。その瞬間、彼女の記憶が映像化される。切なくて悲しくてたまらない。そして最後に現れたのは、エヴァが海岸で両親と過ごすという記憶。そこにいる母は当然レナ。ところが父親はアレックスだった。レナはアレックスを思うあまり、彼を父親としてエヴァの記憶に定着させたのだろう。だからエヴァはアレックスを慕っていたということ。
よくできた映画なんだけれど、悲しいだけで終わってしまう。カタルシスが不在なので、やるせない気持ちが残るだけ。アレックスには、どうせならエヴァを連れて逃亡して欲しかったなぁ。
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