ファウンデーションが見えた
本格的なSF作家が描く世界観は、完全に理解するまでに時間を要する。最近では『三体』という中国作家の作品が話題になったけれど、ボクも読破したあの物語の世界は、本を手にしていない人に素晴らしさを説明するのは難しい。
同じく世界的なSF作家であるアイザック・アシモフの代表作に関して、ようやくボクも理解へのスタートラインに立てた気がする。
2022年 読書#37
『ファウンデーションの誕生』下巻 アイザック・アシモフ著という小説。上巻の感想については『ドラマの世界から離れてきた』という記事に書いているので参照を。
テレビドラマから興味を持って原作に挑戦した『ファウンデーション』シリーズ。関連本を含めると13作品もあって、前史にあたる3作を読んだあと、『ファウンデーション』シリーズに突入。この作品で2作目となる。
ここまで来て、ようやく『ファウンデーション』という物語の世界観が見えてきた。ドラマは原作からかなり変更されているけれど、基本的な世界観は残されている。だからドラマで不明瞭だった部分も理解できたし、同じ名前の登場人物がどのように使われているかもわかって楽しむことができた。
心理歴史学という数学的手法を使った予言理論を打ち出したハリ・セルダンという主人公。ドラマでは老人での登場だったけれど、『ファウンデーションの序曲』では30代前半で登場して、この『ファウンデーションの誕生』においては老人として息を引き取っている。セルダンの人生を描いた物語だと言っていい。
実は最初に書かれたシリーズ作が、時系列としてこの作品のあとになる。つまり著者のアシモフとしては、心理歴史学の創始者であるハリ・セルダンの人生を書くべきだとあとから思ったのだろう。そうしないとファウンデーションの成り立ちが説明できないから。
この物語の宇宙はトランターという帝国が支配していた。ところが帝国は崩壊に向かっている、とセルダンは心理歴史学によって予測。だが学問としての完成を見ないまま帝国は危機を迎えていく。そこで貴重な知識の避難場所としてファウンデーションという構想を打ち出した。これはドラマでも同じ。
ただこの物語の面白さは、ファウンデーションが一つでないということ。ターミナスという過去に人類が住んだことのない惑星があった。そこに追放されるような形で、銀河百科事典を編纂する物理学者たちが移住した。だけどそれだけでは人類を救えない。
そこでセルダンはもう一つの隠されたファウンデーションをひそかに用意した。それは彼女の孫娘であるウォンダを中心としたテレパシー能力を持つ人たちの集団が移住した世界。この能力は他人の心にも影響を与えることができる。宇宙の果てから、人類の意思決定に影響を与えようとする惑星だということ。
ということでこの二つのファウンデーションを通じた物語がこれから展開していくのだろう。いやいや、マジでスケールのでかい物語になってきた。
今回の原作でもっとも驚いたのは、ハリ・セルダンにドースという妻がいたこと。ドラマでは孤独な老人だったのに。そしてレイチという養子の息子がいて、その娘がウォンダということになる。息子のレイチや彼の妻たちは、この物語の下巻で戦争に巻き込まれて命と落とす。生き残ったのは孫のウォンダだけだった。
さらに驚くのがハリ・セルダンの妻のドースが、実はアンドロイドだったということ。そんな予感は少しずつしていたけれど、下巻になって完全に明らかにされる。だから戦っても強い。ドースの目的はセルダンを守ることだった。
でもセルダンは本気でドースを愛していた。ロボットだとわかっているのに。反逆者の陰謀によってドースが破壊されてしまうシーンなんて、涙なしには読めなかった。さて、まだまだ先は長い。ようやくこの物語に核心に近づいてきたところなので、引き続きこのシリーズを追いかけるとしよう。
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