5歳で世界を初体験した少年
子供時代に引きこもりとなった人の場合、自分の部屋から出なくても外の世界がどうなっているか知っている。そもそも引きこもりとなったのは、外の世界に適応できないと感じたからだろう。
だけどもし生まれてからずっと、狭い部屋で引きこもっていたらどうなるだろう? そんな少年を描いた映画を観た。衝撃的で、かつ心を激しく揺さぶられる作品だった。
2022年 映画#69
『ルーム』(原題:Room)という2015年のカナダ・イギリス・アイルランド・アメリカの合作映画。誘拐監禁事件を扱った作品。けれども犯罪の解決というよりは、被害者たちの心を深く掘り下げた内容。心から拍手を送りたいと感じた、本当に素晴らしい映画だった。
主人公はジョイという若い母親とジャックという5歳になったばかりの少年。ジョイは17歳のときにある男に騙され、誘拐されて監禁される。納屋に閉じ込められ、出入り口は電子ロックで閉じられている。週に1度は生活用品をジョイに渡し、レイプされるという日々だった。
その結果生まれたのがジャック。ジョイは息子がいることで自殺することなく、必死で生き延びようとしていた。このあたりの設定にはやや無理があるけれど、そうでないとこの物語は語れない。ジャックはその狭い『ルーム』で生まれ、それ以外の世界を見たことがない。
テレビはあるけれど、納屋の外は宇宙が広がっているとジョイに教えられていた。幼い子供に事実を伝えることは無理だから。男がやってくるとき、ジャックはクローゼットに押し込められる。でもそれ以外は、母との生活を彼なりに満喫していた。
だけど息子が5歳になったとき、ジョイはある計画を実行する。ジャックに演技を仕込み、写真のようにカーペットに巻いて死んだフリをさせた。おそらくジャックの遺体をどこかに捨てるだろう。そのすきに逃げる方法を教え、誰でもいいから出会った人に助けを求めるようにと言った。
この逃亡シーンはハラハラドキドキだった。さらにやってきた婦人警官が優秀な人物で、ジャックの乏しい会話から監禁場所を推理する。そして無事に母のジョイを保護して、犯人の男も逮捕された。普通ならこれで映画が終わりそうだけれど、この段階でようやく半分ほど。
映画の後半は、ジョイとジャック母子の苦悩が描かれている。助けられて実家に戻ったジョイとジャック。でもジャックにすれば、5歳にして外の世界を初めて体験した。例えが適切じゃないかもしれないけれど、部屋飼いをしていた猫をいきなり外に放り出すようなもの。パニックになるのは当然。
さらに適切な免疫を受けていないので、彼にとって未知の病気に感染する可能性もある。このあたりのシーンは、ジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイという子役の演技に脱帽した。彼はこの映画の2年後に『ワンダー君は太陽』という作品に出ている。そのときに天才だと思ったけれど、2年前にもこの作品で天才ぶりを発揮していた。すごい子役だわぁ。
母のジョイも落ち着くことなく、PTSDのような症状を発症する。7年も監禁されていたんだから、正常でいられるはずがない。自殺未遂を起こしたりして、一時的に息子のジャックから引き離される。ジャックの祖母と彼女の再婚相手の献身がなければ、ジョイとジャックは生きていられなかっただろう。
そしてラストシーンが本当に素敵だった。ようやく普通の生活を取り戻しつつあった二人が、『ルーム』を再訪する。それは自分の辛い過去に対する決別の場面であり、この映画のラストとして心に残る素晴らしいシーンだったと思う。
母親のジョイを演じたブリー・ラーソンは、この作品でアカデミー主演女優賞を受賞している。まさにアカデミー級の素晴らしい演技だった。ちなみに祖母を演じたジョアン・アレンは相変わらず素敵な女優さんだった。彼女の落ち着いた演技を見ているだけでホッとできるよなぁ。
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