清風のような文章と主人公
ここのところ時代小説と縁が深い。毎朝『新・平家物語』と『源氏物語』を読んでいるので、呼び水のように時代小説を引き寄せているのかもしれない。そのうえ大河ドラマの影響で『吾妻鏡』の現代語訳を読もうと思っているくらいだから、ますます時代小説を引き寄せそう。
前回の読書記録で紹介したのは『塞王の盾』という戦国時代を舞台にした物語だったし、今夜から読もうと思っているのは江戸時代が舞台となった小説。そして昨日読了したものも同じく江戸時代の物語だった。
2022年 読書#57
『髙瀬庄左衛門御留書』砂原浩太朗 著という小説。小説のタイトルは(たかせしょうざえもんおとどめがき)と読む。なんともいかついタイトルなんだけれど、文章が美しく、主人公の庄左衛門の生き様が清風のように爽やかだった。だから読み終えたあとに、とても心地いい風が心を吹き抜けたような気がした。
文章が美しいと書いたけれど、それだけでなく物語の前半にきめ細やかな伏線が仕込まれている。これらの伏線がラスト近くになって一気に回収されていくので、とにかく気持ちがいい。清涼感の理由は文章だけでなく、構成のうまさにあるんだと思う。
昨年の春に出版されたばかりの小説なので、ネタバレに注意して物語の雰囲気だけ紹介しようと思う。
主人公の庄左衛門はいまで言えば中年くらいの武士。だけど江戸時代なら、隠居していいような年齢だろう。彼は次男だったので、髙瀬家に婿入りして一人息子をもうけた。息子は志穂という女性を妻にしていて、二組の夫婦で一緒に暮らしていた。
ところが数年前に庄左衛門の妻が病気で他界。庄左衛門の仕事は郡方という農家と藩をつなぐ役目。それゆえ農家周りが仕事のひとつだが、すでに息子に譲って彼は隠居同然の生活だった。絵を描くのが趣味で、暇を見つけては絵筆を取っていた。
そんな折、一人息子が農村を歩いているときに事故で命を落としてしまう。仕方なく庄左衛門は隠居を撤回して職務に復帰。息子の妻と二人で同居するわけにもいかないので、志穂を実家に帰してしまう。
だが元々息子夫婦はうまくいっていなかった。志穂はどちらかといえば義父である庄左衛門を慕っていた。それゆえ実家に帰ることを拒んだけれど、世間の目はうるさい。それで絵心のある志穂は、義父に絵の指導を受けるということで、定期的に庄左衛門の家に通うようになった。
これだけだとホームドラマのようだけれど、そうはいかない。この神山藩には勢力争いがあって、庄左衛門はその騒動に巻き込まれていく。騒動の始まりは志穂の兄がある事件に関わったこと。そこから庄左衛門も関係することになり、やがて藩政を揺るがす大事件が勃発する。
そんな大事件へと至る過程で、庄左衛門の青年時代の恋や友人関係が語られていく。そのすべてが大事件へとつながり、息子の事故死の真相も明らかになる。さらに義父に対して恋心を抱いている志穂もからむことで、複雑な人間模様が描かれていく。結果として庄左衛門が志穂に絵を教えたことで、彼は命を救われることになる。このあたりの伏線の配置が素晴らしい!
本当に素敵な小説だった。これはシリーズ化できる作品だと思う。応援したいキャラが大勢登場するので、是非とも続編を期待したいと思う。
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