江戸時代の離婚は大変
時代小説のいいところは、舞台となっている時代の文化や風俗を学べること。江戸時代は男性優位の社会で、『三行半』を突きつけたら夫は妻を無条件で離婚できた。その程度のことは知っていたし、女性蔑視のひどい制度だと思う。だけど実際には、そう簡単なことではななかったらしい。
2022年 読書#58
『こいわすれ』畠中恵 著という小説。江戸時代の町名主を主人公にした物語で、『まんまこと』シリーズとして現在も執筆されている。1作目を読んで面白かったので、シリーズ読破を目指している。この作品は2011年に出版された第3弾。
同じ著者のシリーズで妖怪が活躍する『しゃばけ』シリーズという作品がある。こちらは最新作を除いて読了しているけれど、全体的に明るい雰囲気で物語が進行していく。この『まんまこと』シリーズもそうだったのに、この第3作で愕然とするショックな展開になってしまった。あまりにショックで、まだ少し引きづっている。
主人公は高橋麻之助で、神田町名主の跡取り息子。町名主とは奉行所で扱えない揉め事を調停する仕事。今風に言えば家庭裁判所に近いかな。同じく親友の町名主である八木清十郎、同じく親友の同心見習いである相馬吉五郎がレギュラー。
そして第1作目から登場して、第2作目では麻之助の妻となったお寿ず。さらに清十郎の父の再婚相手で、かつ麻之助の初恋相手であるお由有も欠かせないキャラ。さらに前作からレギュラー化しているのがおこ乃という吉五郎の姪。まだこの作品では13歳。
いつもどおり6つの短編で構成されている、連続ドラマ型の小説。タイトルだけ記しておこう。
『おさかなばなし』
『お江戸の一番』
『御身の名は』
『おとこだて』
『鬼神のお告げ』
『こいわすれ』
という6作品。今回は夫婦に関する揉め事やトラブルが多く、最初に書いたように江戸時代の離婚について勉強することができた。いつもながら麻之助の見事な推理によって事件は解決していく。笑ったり、ちょっと剣呑な物語もあった。でもいつもながら見事な解決にスッキリする。
さて離婚に関すること。『三行半』を出せば夫が妻を実家に帰らせることはできる。ただし条件がある。結婚したときに妻の実家が用意した持参金、そして妻の私物はすべて返さなければいけない。離婚された妻が再婚するときに必要となるから。
だけど何年も生活していると、夫は妻の持参金を使ってしまうことがる。あるいは持参金代わりに持ってきた高価な品を質に入れてしまい、返せないこともある。そうなるとどれだけ『三行半』を書いても離婚は認められない。妻がいいと言っても、妻の実家が許さない。でないと娘を再婚させられないから。
そういえば忠臣蔵の主役である大石内蔵助は、討ち入りにあたって帳簿をつけていた。それに関する本を読んだけれど、改易をされ当初は元藩士たちが生活できるように費用を工面してやる必要がある。大石は仕方なく、藩主である浅野内匠頭の正室の持参金を借用した。
そして討ち入りまでに金を工面して、討ち入りの前日に離縁された正室に帳簿を提出して持参金を返金している。当時としては社会常識だったんだろうね。そして心置きなく討ち入りを決行した。
ただし夫が持参金を返却しなくていい場合がある、離縁の理由が妻の逝去、あるいは妻の不貞等のとき。あるDV夫から逃げるため、それを逆に利用した妻の物語があって、なかなか面白かった。
けれどそんな楽しさも、あるショックですべてぶっ飛んだ。麻之助の妻のお寿ずは妊娠していた。だけどあまり体調が良くない。そして『こいわすれ』というタイトルに象徴されるよう、早産したことで生まれた娘と妻が亡くなってしまう。江戸時代ではよくあることだろう。
もうまじでショック。あんな仲の良かった夫婦生活が第3作で終わりを迎えるなんて。だから『こいわすれ』のときの麻之助の落ち込みは相当なもの。おそらく次回作でも引きづったままだろう。もちろんボクも。
だけど期待していることがある。妻の親戚にあたるおこ乃。江戸時代ならもう1〜2年で嫁ぐことができる。死の間際、妻は夫のことをこのおこ乃に頼んでいる。そして二人は双子かと思うほど似ている。
ということは……。とボクはちょっと期待をかけている。心の痛みが癒されるのに時間はかかるだろうけれど、麻之助とおこ乃が結ばれたらいいなぁ。
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