切なさだけ残されてもなぁ
ファンタジー作品はSFと趣旨が異なるので、誰もが納得できる状況説明は不要なのかもしれない。だからある程度は乱暴な設定も受け入れている。だとしても、物語に大きな影響を持つ要因については無視できない。
ある映画を観てそう感じた。だったら原作を読めば理解できるかも。そう思って手にしたけれど、待っていたのは切なさだけだった。
2022年 読書#71
『エヴリデイ』デイヴィッド・レヴィサン著という小説。同じタイトルの映画を観て、どうしてもあることが気になっていた。それで原作を読んだのに、気になることが置き去りにされたままだった。
まずは乱暴な設定を書いておこう。ボクとしてはこの内容を好ましく思っている。
主人公はAという人物。名前がない。なぜなら彼は毎朝ちがう人間の身体に入って目を覚ますから。自分の意思で止めらないので、別の人物として生活をするしかない。性別もどうなるかわからない。だけどいくつかルールがある。
肉体の持ち主の記憶にはアクセスできる。ただし時間がかかるので、即答が難しい。肉体に入るのはAと同じ年齢。11歳のときは11歳だし、高校生になればその年齢の肉体に入り込む。違う言語は話せない。だから物語では基本的に英語を話す人物だけに限定されている。
この乱暴な設定が受容できない人は、この作品の映画も原作も無理だろう。かなり寛容な心が必要かもwww
さてそのAは、生まれて初めてリアノンという女性に恋をしてしまう。だけど毎日別人になっているから、その想いを伝えられない。映画も原作も、どうにかしてリアノンにAという存在を理解してもらう。やがてリアノンもAを愛するようになる。
だけど決まった肉体を持てないAにとって、リアノンとの恋愛は難しい。日替わりの肉体で結婚することは無理。ここで問題解決となるのは、特定の人間の肉体に留まる方法。それはあった。
その方法は優しいAには無理だった。自分が使うことになる肉体の持ち主の命を奪ってしまうことになるから。その決断ができない限り、永遠に他人の肉体をさまようことになってしまう。
Aはアレクサンダーという人物を好きになった。この男子の肉体でリアノンを愛したいと願った。だけどアレクサンダーを殺すことはできない。そこでAは決断する。アレクサンダーの心にAの想いを残すことで、リアノンと結びつける。リアノンにもそのことを話した。そしてAは二人から去っていくというラスト。
やっぱり切ない。Aが気の毒すぎる。ただボクはどうしても気になることがある。Aの素性がまったく語られていないこと。
この物語の流れなら、赤ちゃんのころからAは毎日他人の身体を移動している。ということは本当のAであった赤ちゃんがいるはず。その赤ちゃんからAが抜け出たとして、その赤ちゃんの現在はどうなっているの? 抜け殻で昏睡状態なのだろうか?
自分が戻る場所があるかもしれないのに、Aは他人の肉体を渡り歩いていることになる。この部分がボクは気になって仕方ない。もしAが肉体を持って生まれたことがないとしたら、Aは幽霊ということになってしまう。そうなるとこの物語の要素が根本的に変わってしまう。ファンタジーというよりオカルトやんwww
面白い物語だけに、Aに関する『救い』のようなものが欲しかった。切ないだけではツラ過ぎるものなぁ。
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