京都人ゆえに覚える違和感
いま書いている新作小説は、来年の京都文学賞に投稿予定の作品。投稿条件として京都が舞台となる作品なので、京都で生まれ育ったボクとしてはこの文学賞を見逃せない。ただ小説を書くうえで感じているのは、京都に対する感覚の個人差。
ボクのような京都人は、あの街が自分の一部として完全に溶け込んでいる。分離することは不可能だろう。それゆえ、他府県の人が京都に抱いているイメージとはちがうように思う。だから作品として京都を舞台とする場合、どちらの視点で書くべきかを悩んでいた。
といっても悩んでいるだけで、先ほども書いたように分離することはできない。だからどうしても京都人としての視点になってしまう。そこで他府県出身の作家が書いた京都小説を読んでみた。ちがった視点で京都を感じたかったから。
2022年 読書#89
『異邦人』(いりびと)原田マハ 著という小説。ボクは知らなかったけれど、昨年にはWOWOWでドラマ化された作品とのこと。主人公は篁菜穂という女性。妊娠中に東北の大震災が起きたことで放射能を心配した菜穂は、夫の一輝と離れて京都で暮らすことにした。ボクとしてはこの設定でひいてしまった。
菜穂の実家は私設美術館を運営していて、菜穂は鋭い審美眼を持っている。夫の一輝は父が経営する画廊の専務。つまり美術一家という設定。ただ震災の影響で美術館も画廊も経営が思わしくない。そのことで様々な問題が起きてくる。
菜穂が京都で暮らすことの必然性に首を捻りたくなったけれど、そこをスルーして読み進めた。やがて菜穂は無名の画家を見つける。白根樹という女性画家で、志村昭山という日本画家の養女だった。ただし口がきけない。
なぜ菜穂が樹という女性画家にのめり込んでいくのか。この点に関してはよくできたストーリーだった。そして夫の一輝たちに東京へ戻るように強制されかけた菜穂が、離婚してまで樹を守ろうとした理由に驚いた。
結論から言えば菜穂は実家の父の娘ではなく、美術蒐集家の祖父が京都の芸妓との間に作った子供だった。だから祖父は娘が困ることのないよう、美術館の資産のほとんどを占める絵画を菜穂の名義にしていた。これが夫や母と戦うための資産となった。
そして何より驚いたのは、菜穂と樹の母親は同じだったという設定。父はちがうけれど、姉妹の血が二人を結びつけたのだろう。そして京都の芸妓であった母の魂が菜穂を京都へ呼び寄せたのかもしれない。
最初は読みづらい印象だったけれど、最終的な仕掛けに驚いて最後まで読み進むことができた。ただ最初に書いたように京都の描写が気になった。葵祭、祇園祭、五山の送り火等、京都案内のように京都の文化が描写されていた。
まるでガイドブックのような描写にボクは違和感を覚えてしまった。京都人として読み進めていくと、そこに書かれているのボクの知っている京都ではない。やはり他府県の人の視点で書かれた京都だった。これは京都出身の人ならわかってもらえるのではないだろうか。
著者は東京生まれで、岡山で暮らされた経験があるよう。そして大学は関西だった。そういう意味では西日本に縁の深い方なんだと思う。だけどやはり京都に関して言えば、著者は『異邦人』なんだと思う。もしかしたらタイトルの意味は、そこにあるのかもしれないね。
ということでボクが書く京都は、京都人としての視点でしか書けないことがわかった。それでいいと思う。
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