想定外の対応は基本力が必須
伝統芸能やスポーツのプロとなるには、気が遠くなるほど基本を学ぶことが必須。それなしに達人の領域に達する人はほとんどいない。
基本が大切だという定理は、この世のすべてのことに当てはまる真理だと思う。音楽や絵画、そして文章を書くという能力もそう。一般事務のような仕事でも、その定理を無視できない。真のプロの能力とは、徹底した基本形の習熟によって想定外の出来事に対処できる力だと思う。
ある映画を観て、フィクションだとはいえその真理が貫かれていることに感銘を受けた。
2022年 映画#152
『地獄の7人』(原題:Uncommon Valor)という1982年のアメリカ映画。ベトナム戦争を取り上げた作品で、国家間の停戦が成立しても簡単に戦争が終わらないことを痛感させられた作品だった。現在の老練的な魅力とちがい、まだ壮年の活力を感じさせるジーン・ハックマンが主演している。
ジーン・ハックマン演じるローズ大佐には、ベトナム戦争で負傷した戦友を助けようとして逃げ遅れ、敵の捕虜となったフランクという息子がいた。ところが終戦して10年も経つのに、フランクの行方がわからない。
ローズは大佐としての地位を駆使することで、ようやくフランクがいるかもしれない場所を突き止めた。それはラオスの奥深くにある捕虜収容所だった。軍の幹部や政治家に働きかけて息子を助け出すように依頼するが、一向に動いてもらえない。
アメリカにとってベトナム戦争は敗戦であり、捕虜の解放を強く主張することが外交的にできない。帰還したベトナム兵でさえ、アメリカ国民からは白い目で見られている。ましてや国益を損なってまで、税金を使って行方不明の兵士を探すことができる状況ではなかった。
そこでローズは思い切った行動に出る。捕虜収容所の航空写真を極秘で手に入れると、ローズと同じ立場にいる石油王のマクレガーに相談。彼の息子はフランクと同じ部隊で行方不明となっていた。マクレガーが大量の資金を提供することで、極秘のプロジェクトが進行する。
ローズが声をかけて集めたのはフランクの戦友たち。遺憾ながらフランクを見捨てることになり、ずっと気にかけていた。さらに父親がベトナムで同じく行方不明となっていたスコットという若い兵士もその仲間に加わる。
ここからすごいのは、アメリカのある場所に捕虜収容所と同じものが作られていた。そしてその場所での訓練がひたすら繰り返される。映画の半分近くをこの訓練シーンに費やしていることで、基本の大切さが切実に訴えられているように感じた。
完璧に訓練を済ませ、大量の武器を手にしてメンバーはラオスに向かった。ところがタイでCIAにその計画がバレてしまい、武器やトラックを没収されてしまう。でも完璧な訓練を積んだ写真の7人は、そんな想定外の展開にもひるまない。
映画の後半はついに実戦となる。この映画の面白さは、映画の前半と後半が対照的に描かれているところ。何事も計画通りにはいかない。だけど基本訓練ができている彼らはどうにかしようとする。そして結果として、アメリカ人捕虜4人の救出に成功する。
捕虜には石油王のマクレガーの息子もいた。だけどフランクはいない。マクレガーの息子によると、厳しい捕虜生活の末に病死してしまったとのこと。それでも捕虜とともに帰還した兵士たちは、英雄としてアメリカ国民に迎え入れられた。
ローズに感情移入すると切ない物語だけれど、ジーン・ハックマンがそんな複雑な心境の人物を見事に演じていた。戦争は簡単に終わらない。ローズのような人たちにとって、戦争が本当の意味で終わることはないのだろう。
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