戦場記者の命が軽すぎる
TikTokを見ていると、ウクライナの兵士がアップしている動画が目に付く。緊迫した映像ではなく、くつろいだ雰囲気の動画がほとんど。でも時には銃声が響いていたり、ロシアの戦車が爆撃を受けている映像等も流れている。
これらはメディアを通した映像ではないけれど、現場の雰囲気を感じることができる。マスコミのフィルターをかけられた映像ではないだけに、言葉にできない生々しさが発散している。もちろん戦争に関する真の恐怖は、そうした映像から見えてこない。それでも戦争がいまも続いていることを気づかせてくれる、とても大切な意味があると思う。
戦争報道の真の意味は、実はそこにあるのでは? どれだけ悲惨な映像を見せても、それを見て具体的な行動を起こす人は一部だと思う。戦争の当事国ではないほとんどの人は、悲惨な映像による一時的な感傷しか抱かない。
だけどそうした記事は、従軍記者が命をかけて撮影してきたもの。特にネットが普及する以前は、記者たちが兵士と共に前線で銃弾を避けながら取材した記事が報道されてきた。そこまで命をかけてやる意味が、本当にあるのだろうか? ある映画を観て、そのことを考えてしまった。
2022年 映画#166
『プライベート・ウォー』(原題:A Private War)という2018年のアメリカ映画。実在したメリー・コルヴィンというアメリカ人記者の伝記映画。写真でわかるように、メリーはまだ若いのに片目を失明している。2001年にスリランカ内戦の取材中、爆弾に巻き込まれて負傷したから。
そして2012年にシリア内戦の取材中に砲撃を受けて殉職している。まだ56歳だった。何度も戦地で過ごした結果、メリーはPTSDに苦しんでいた。不眠は常で、妄想に苦しむ日々だった。映画を観ている限りヘビースモーカーだったし、アルコール依存症だと言っていいほどの状態。健康的にもかなりヤバい状態だったはず。
それでも戦地中毒のようなところがあって、戦地に行きたいと渇望しているところもある。そんな難しいメリーという人物を、ロザムンド・パイクが完璧に演じていたと思う。元々実力のある女優で、ボクは彼女の大ファン。この映画を観て、さらに彼女のことが好きになった。
本当にすごい映画で、最初から最後まで緊張感が抜けない。戦地を離れた恋愛シーンだけがホッとできる瞬間。メリーは戦争そのものより、民間人の実情を報道することに全力を傾けていた。そして数々の賞を受賞している。
ただボクは思った。メリーのやってきたことは本当にすごい。戦争の真実を伝えていたと思う。だけど最初に書いたように、その記事がどれだけの人の心を動かし、戦争をなくすことに寄与したかは疑問に思う。
なぜならいまになっても世界中で戦争が続いているから。さらにきな臭い話がいくつも出てくる。結局は戦争当事国の人以外にとって、戦争は人ごとだと感じているんだと思う。その代表が日本人だろう。
戦場記者の行動は偉大だと思う。だけど彼らが命をかけるほど、その取材に価値があるのかどうか不安に思ってしまう。この映画を観ていると、記者たちの命があまりにも軽すぎるように感じてしまう。でもこうしているあいだにも、ウクライナ等で取材を続けている記者がいるのだろう。無事を祈るしかない。
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