キューバ危機より脆い今の世界
日本で暮らしていると、戦争を身近に感じることが少ない。ロシアによるウクライナへの侵攻も、そして台湾に迫りつつある中国の脅威も、テレビやネットで流れてくるニュースという感覚に陥りやすい。だけどそれは大いなる誤解。
いまと同じように、日本人が外国の出来事として傍観していた危機があった。キューバ危機と呼ばれているもので、キューバへの勢力争いによってアメリカとソ連が核戦争一歩手前までいったという大事件。
ボクが生まれた1962年の出来事なので、当然ながらボクにとっては歴史上の過去と同様の感覚しかない。それがどれほど緊迫した出来事だったのかを、映画を通じてようやく感じることができた。
2022年 映画#175
『13デイズ』(原題:Thirteen Days)という2000年のアメリカ映画。この当時の大統領は暗殺されたジョン・F・ケネディで、弟のロバート・ケネディは司法長官だった。この兄弟を全力で支えたのが大統領特別補佐官のケネス・オドネルで、まだ若いケビン・コスナーが演じている。
この3人は学生時代からの親友で、映画を観ている限りにおいて核戦争を防いだのは彼らに強い信頼関係があったからだと思う。事件の発端はアメリカの偵察機が密かに撮影した写真。そこにはソ連製の核ミサイルが配備されようとしていた。
ケネディ大統領たちは必死になってその実態をつかもうとする。このあたりの緊迫感は、冒頭から圧倒的な勢いで迫ってきた。そしてそれが映画のラストまで続くことになる。戦争は起きていないので、映画のなかで死んだのは偵察機のパイロットが一人だけ。でも大量の兵士が戦死する映画を観たような気分だった。
アメリカの軍部は戦争がしたくてたまらない。だから大統領たちに反抗的な態度を見せる。敵はソ連なのに、どちらかといえば真の敵は国内にいるという様相だった。事実としては知っていたけれど、ここまで核戦争の危険が迫っていたとは思わなかった。
もちろんドキュメントではないので、脚色されているだろう。それでも事実は網羅されているはず。ソ連のフルシチョフもタカ派の勢いに押されていて、アメリカとの全面戦争を避けるために極秘で交渉を持ちかけてきた。だけど妨害が入ることによって、アメリカとしてはどこまで信用できるかわからない。
最終期限の数時間前まで、そんな攻防が続いていた。無事に夜明けを迎えられるかという状況まで追い詰められた主人公たち。最終的にはロバート・ケネディによるソ連大使への説得が成功して(裏交渉としてトルコに配備してあるアメリカのミサイル撤去が内々に伝えられていたけれど)、ようやく危機回避することができた。
世界を核戦争から救ったジョン・F・ケネディとロバート・ケネディの兄弟。彼らが二人とも暗殺されてしまうことに、アメリカの深い闇を感じてしまう。そして彼らを支えてきたケネス・オドネルもその後の人生はキツい。
オドネルはケネディ大統領が暗殺された車に同乗していたし、弟のロバートが選挙に出馬して責任者の任に就いたのにロバートは暗殺されてしまう。映画では語られていないけれど、憔悴した彼はアルコールに溺れ、53歳の若さで亡くなっているそう。
さて現代に目を移そう。ソ連ことロシアでは、ウクライナに対する戦術核兵器の使用について軍幹部が検討したという報道があった。数日前のこと。これは誤報だとは思われない。実際にやるかどうかは別にして、選択肢のひとつとして存在しているのは事実だろう。
さらに中国による台湾への武力侵攻が、当初の予想より早まる可能性があることも指摘されている。アメリカ政府の幹部によると、この2〜3年で中国軍が動くかもしれないということ。これらの危機はキューバ危機に匹敵するものであり、最悪の場合は第三次世界大戦の引き金になってしまう。
果たして現代にはケネディ兄弟のような人物が存在しているのだろうか? そう考えると不安になる。そしてどことなく実感の持てない日本の雰囲気も気になるところ。この映画を観て、いつ何が起きても不思議でないことを再認識するほうがいいかもしれない。
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