既存宗教に一矢報いた映画
どうしても10日に亡くなったジェフ・ベックのことを考えてしまうので、あえて別のミュージシャンに意識を向けよう。でないと涙が出てきそうだから。
ここ数ヶ月でリリースされたアルバムで、お気に入りの作品はいくつもある。そんななか、今年になってヘビロテしているのがシザ(SZA)の『S.O.S.』という彼女のセカンドアルバム。ビルボードもアルバムのトップ1を独走中で、シングル曲もベスト100に数曲がランクインしている。
いまもっともヒットしているのが、過去に1位になり今週でも3位にランクインしている『Kill Bill』という曲。歌詞を見ると、かなりヤバい内容。元カレを殺すとか殺さないとか。ところがこの曲のメロディが惚れ惚れするほど美しい。胸がジンとするメロディ。だから歌詞とのギャップに惹きつけられてしまう。
そもそもシザの声が麻薬のような魅力を放っている。彼女の歌声を聞き慣れてくると、常に聴いていたいと思ってしまう。その新しいシングルのミュージックビデオが昨日になって公開された。これがまた凄い。ユア・サーマンが主演した『キル・ビル』の映画を彷彿とさせる構成。
百聞は一見にしかずなので、見てもらえばわかると思う。そして激しい映像と美しいメロディとのギャップを実感してもらえたらと思う。
さて、かなり風変わりな映画を観た。賛否両論がある作品かも。でもボクとしては心から拍手を送りたい良作だった。特にキリスト教やイスラム教という、既存宗教に対して一矢報いたようで爽快だった。
2023年 映画#7
『MORTAL モータル』(原題:Mortal)という2020年のノルウェー映画。スウェーデンやデンマークの映画を観たことはあるけれど、もしかしたらノルウェー映画は初めてかもしれない。ダメ元で観たけれど、これがとても素晴らしい作品だった。
エリックはノルウェー系のアメリカ人。親戚に会うためにノルウェー郊外の農場を訪れていた。だけどその場所に立ったとたんエリックに変化が起きる。興奮状態になるだけで発火してしまう。周囲を猛火に包んでしまうことで、その農場の家族を全員焼死させてしまった。
失意のなか荒野をさまよっていると、若い男女にからかわれた。自分に触ると死ぬと警告したのに、ある青年がエリックに触れた。その直後にその青年は即死してしまう。それで警察に逮捕された。
ただ異常な状況なので、地元の警察署長はクリスティーンという心理学者を呼ぶ。そしてクリスティーンだけに心を許したエリックは、能力の秘密を探ろうとする。ところが邪魔が入った。エリックはアメリカ人ということで、アメリカの外務官が彼を拘束しようとした。
エリックは素直に従うが、移送中のヘリで興奮したことでヘリは墜落してしまう。殺人者として追われたエリックには、クリスティーンしか頼る人物はいなかった。そしていよいよ彼に起きたことが明らかにされる。
ここからが面白い。エリックはノルウェー神話の「エール」という神と同じ能力を持っていることがわかった。そしてどうやらその「エール」の後継者だということも。地元の住民は神話の神が復活したことでエリックを受け入れた。彼は瀕死の少年を生き返らせたり、気象を自由に操ることができたから。その奇跡は世界に報道さてしまう。
そこでアメリカ政府が行動に出る。キリスト教社会としては、邪教の象徴であるエリックを放置することはできない。そこで特殊部隊に極秘指令が出て、エリックの命が狙われることになる。その結果ある悲劇が起き、エリックはラストで神の怒りを人間に思い知らせるというエンディングだった。
ノルウェー神話を現代ドラマと統合したことで、既存宗教に対する見事なパンチになっていたと思う。映像も迫力があって、最後まで楽しめる作品だった。エンディングは悲劇だけれどね。
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