恋の不思議を感じられた
2023年のアカデミー賞ノミネートが発表された。公開時期と大きくずれることが多いけれど、受賞作はできる限り観るようにしている。特にこの時期になると、過去の受賞作がネットで配信されたり、テレビで放送されることが多い。
主演した男優と女優が二人ともオスカーを受賞した作品がある。それは知っていたけれど、なんとなく観る気持ちになれなかった。それはその二人の恋愛がイメージできなかったから。単なる思い込みなのはわかっていた。それでその思い込みを払拭するため、思い切って観ることにした。
2023年 映画#15
『恋愛小説家』(原題: As Good as It Gets)という1997年のアメリカ映画。その二人とは、写真のジャック・ニコルソンとヘレン・ハント。この二人の恋愛がイメージできなくて、なかなか観る気が起きなかった。
ところが実際に観て予想外の展開に驚いた。シリアスな恋愛映画をイメージしていたけれど、コミカルタッチで人間描写が丁寧に描かれている。ジャック・ニコルソン演じる作家のメルヴィンは強迫性障害を患っていた。
部屋の鍵は5回施錠を確認するし、手を何度も洗う。石鹸は1回ごとに使い捨てだし、外を歩くときはアスファルトやタイルの継ぎ目を絶対に踏めない。潔癖症でもあって、常連のダイナーに行くときはプラスチックのマイスプーンとマイフォークを持参する、
そして皮肉屋で偏屈な性格。相手の嫌がることをあえて言ってしまったり、気に入らないとすぐに暴言を吐く。そんなメルヴィンのお気に入りは、そのダイナーでウエイトレスをしているキャロルだった。
キャロルもかなりアクの強い性格で、病気の息子を抱えて日々を必死で生きている。ストーリーの詳細は割愛するけれど、この二人、そしてメルヴィンの隣人でゲイの画家であるサイモンが織りなす物語。最初から終盤までこの3人の関係はトラブル続き。だけどやがて落ち着くところに着地するという内容。
キャロルとサイモンによって、メルヴィンの心が穏やかになっていく過程が面白い。メルヴィンはキャロルのためにやめていた薬を服用して、全力でいい人間になろうとしている。彼はサイモンの愛犬をイヤイヤ預かったが、やがてその犬を心から愛するようになる。
そしてこの作品の楽しみは、若いヘレン・ハントがとても可愛くてセクシーなこと。『ツイスター』の翌年に出演した作品なので、女優としても波に乗っているときだったんだと思う。
さてボクの思い込みについて。ジャック・ニコルソンは大好きな俳優。だけどこの当時で60歳の彼の恋愛映画はどうかな? と思っていた。なんせあの顔立ちなので、決して美男ではない。若いころは二枚目だったけれどね。
恋愛映画というのは感情移入して観ることが多い。だから美男美女が登場して観客を妄想させる。だけどこの映画のメルヴィンはある意味リアル。人間臭くて人を怒らせてばかりいる。そういう意味では感情移入しづらい。
ただこの映画が素晴らしいと思ったのは、そんな癖のある人間を愛していくキャロルの心の動き。人に恋するというのは、見かけだけじゃない。何度もぶつかり合いながら、いつしかかけがえのない相手になっていく。この映画はそんな恋の不思議を感じさせてもらえる作品だった。
だから二人の演技は賞賛されたのだろう。そう考えると、ジャック・ニコルソンをキャスティングしたことが大成功だったんだと思う。思い切って観て良かったと感じる大人の恋愛映画だった。
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