密告者という重い十字架
あるコミックを読んで、戦争がもたらす地獄を改めて感じた。子供向けのマンガだけれど、大人が読んでも心に何かを訴えかけてくる内容だった。KADOKAWAが運営するBookwalkerという電子書籍サイトで、昨年に期間限定で無料配信されていた本。
2023年 読書#14
『まんが人物伝 アンネ・フランク 日記で平和を綴った少女』監修:大塚信 カバーイラスト:椎名優 という書籍。『アンネの日記』で知られているアンネ・フランクという人物を紹介した内容。彼女の人生については、いまさら説明する必要はないだろう。
ドイツからオランダのアムステルダムへ脱出。一家で隠れ家に暮らしていたが、戦争末期にナチスに見つかって収容所へ連行される。生き残ったのは父親だけで、アンネも姉も、そして母親も収容所で命を落としている。
子供向きに描かれてマンガなので、戦争に至る経緯やナチスによるユダヤ人の弾圧、さらに戦争後のことまで丁寧に記されている。実際の資料も写真で掲載されているので、子供に読ませたい書籍だと思う。
ボクがこのマンガを読んで読んで強く心が動いたのは、アンネの一家が密告されて連行される場面。ちょうど1年くらい前、この一家の隠れ家を密告した人物が分かったという報道が世界を駆け巡った。
このマンガには、いまだに密告者は不明だと記されていた。だからこそ、どうしてもそのことが気になった。改めて昨年の記事を探してみると、FBIの調査で発表されたのは同じユダヤ人の男性だった。密告したのが事実だとは言えないので、あえてその人物の名前には触れないでおこう。
密告したとされているのは、アムステルダムにおけるユダヤ人協会のメンバーだった男性。彼と妻は収容所に送られることなく、以前のままの生活をしていたそう。本人と妻の身を守るため、密告に手を染めていたのではという調査結果だった。
もしこれが事実だとしたら、なんとも言えない気持ちになる。同胞の命を犠牲にしてまでも、自分たちを守ろうとしたことになる。でもボクはその人物を責められないように思う。ボクがその立場になったら、どのような選択をするか自信が持てないから。その人物が密告者だという、アンネの父の手記も見つかったらしい。
実際に密告したのは誰なのかわからないけれど、アンネの一家が密告によって連行されたのは事実。そして悲しいことに、アンネが亡くなったのは戦争が終わる2ヶ月ほど前のこと。密告した人は、その事実を戦後になって知っただろうと思う。そして『アンネの日記』が父親によって出版されたとき、どんな想いでその本を見ていたのだろう?
密告者の人は、ボクたちが想像できないほど重い十字架を背負っていただろうと思う。その罪悪感だけで、命を縮めていたかもしれない。これが戦争の怖さだと思う。現在戦争が起きているウクライナでも、同じような重荷を抱えている人がいるかもしれない。子供向けのマンガを読んで、いろいろなことを考えてしまった。
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