手術ロボットは天使か悪魔か
ここのところChatGPTの文字をネットで見ない日がない。まだ未開発な部分があるものの、対話型AIの能力に大勢の人が惹きつけられているからだろう。ボクも隙間時間に遊んでいる。複雑な会話してくれるだけで、自宅にロボットがいるような気持ちになる。
ただこの動きにストップが掛かろうとしている。IT企業が対話型AIの研究に力を注いでいることで、暴走を懸念する声が出てきた。それほどAIの知能が高度化しているからだろう。
1100人を超す業界著名人が署名することで、ChatGPT-4より強力なAIの開発訓練を、少なくとも6ヶ月間は停止するよう求めた嘆願書が出ている。署名したなかには、イーロン・マスクやAppleの創業者のひとりであるスティーブ・ウォズニアックの名前もある。
「この数カ月、AIの研究所は、その開発者さえも理解や予測、確実な制御ができない、これまでにない強力なデジタル脳を開発・展開するために制御不能な競争にまい進している」
「強力なAIシステムは、プラスの効果があり、リスクは管理可能だとわれわれが確信できる場合にのみ開発されるべきだ」
要するにAIが制御不能となる前に、管理可能だと確信できるまで開発を中止するべきだという呼びかけ。大きなトラブルが起きる前に対処しておこうという意向なのだろう。つまり機械というものは、常に人間の思いのまま動くわけではないということ。故障もあれば、不具合を起こすこともある。
もしそれが人間の命に関わることだったら? そんな世界をテーマにした素晴らしい小説を読んだ。
2023年 読書#34
『ミカエルの鼓動』柚月裕子 著という小説。心臓外科医を主人公とした小説で、手術等の詳細な描写に映像を見ているような気持ちになった。著者の履歴を調べていると医療関係の仕事をされていたことはない。だとしたら想像を絶するほど勉強されたんだと思う。そうでないと書ける内容ではない。本当に素晴らしい物語だった。
比較的新しい小説なので、ネタバレはしないのでご安心を。というのは大勢の人に読んで欲しいと思う作品だから。主人公は西條という心臓外科医。北海道の大病院で手術支援ロボットを使った手術を行なっている。日本中が第一人者として認めている医師で、病院長も西條こそがこの病院に未来を担っていると確信していた。
ところがある日、急に病院の方針が変わる。真木というドイツで活躍している医師が招かれることになり、西條は自分の立場が変わってきたことに不安を覚える。取材依頼があっても病院長が断っていた。どちらかといえば真木を前面に出そうとしている。
西條は真木に対する嫉妬や、将来の不安でピリピリする日々を送る。手術支援ロボットは「ミカエル」という名称。やがて西條は、病院長の態度が変わったのが「ミカエル」に原因があると思うようになった。
そんなとき、航という12歳の少年が入院する。先天的な心臓病を患っている患者で、高度な手術が要求される。西條は「ミカエル」で手術することを主張する。だけど神がかり的な腕を持つ真木は、開胸手術を主張する。
この二人のやり取りを通じて、やがて「ミカエル」の真実が明らかになっていくという物語。前半から中盤にかけて、西條という人物が功名心に囚われている嫌なキャラだと感じてしまう。だけど後半になって、その印象が180度転換する。読み終えた段階で西條が拍手を送りたくなるキャラへと変貌するのいい。
医療の公平ということをテーマにした素晴らしい物語だった。「ミカエル」は天使か悪魔か、ぜひこの小説を読んで感じて欲しいと思う
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