カンディンスキーの勁さ
もっとも好きな画家は? と問われれば、「パウル・クレー」と答える。そして「もっとも勇気づけてくれる画家は?」と訊かれたら、「カンディンスキー」と答えるだろう。
カンディンスキーの芸術は一般的に第一次大戦前夜までの「第一期」、そしてバウハウス時代の「第二期」、最後に「第三期」のパリ時代に区分される。
私がもっとも好きなのは第一期。特に「コンポジションⅥ」。
なんたる色の生命力だろう。いったい、これのどこが「抽象」なのだろうか。
ここにはドストエフスキーやトルストイに共通する、永遠の長きに渡る圧倒的な緊張の持続が感じられる。
息を殺して、私は見入る。
時よ止まれ、お前は美しい。
そして「コンポジションⅦ」。この比類なき勁さ。
バウハウス時代になると、カンディンスキーの芸術は幾何学性を帯び、さらには音楽性までをも感じさせてくる。
コンポジションⅧ
第三期のパリ時代になると、彼の作品はそれまでの緊張感から解放され、自由性が感じ取れるようになってくる。
自由でありながら、自然と秩序の中に収まっているかのような、「心の欲するところに従いて、矩を超えず」とでもいうかのような。
コンポジションⅨ
もっとも好きな音楽家は? と問われれば、「モーツァルト」と答える。そして「もっとも勇気づけてくれる音楽家は?」と訊かれたら、「ベートーヴェン」と答えるだろう。
カンディンスキーの三期は、「質的な変容」だと私は思う。同じようにその芸術を三期に分けることのできる音楽家としてベートーヴェンが挙げられるが、彼の場合は変容ではなく、まるで脱皮したかのような明らかなる成長を見せている。
ことに、中期から後期にかけてのベートーヴェンの芸術の深化。これについては別に書く。